『ルーザーズ ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~』はもうひと味が足りないのが残念 周年記念作品ゆえか?

『ルーザーズ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~(3)』(双葉社)

「漫画アクション」(双葉社)で連載された吉本浩二『ルーザーズ ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~』が、6月末に発売された単行本第3巻で完結した。これは1967年に「週刊漫画アクション」の名前で創刊された同誌の創刊を軸にして、後に双葉社の社長になった清水文人らの苦闘を描いた群像劇である

 作画を担当し、「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)などに連載された『ブラック・ジャック創作秘話〜手塚治虫の仕事場から〜』がヒットして以来、ルポマンガを多く手がけている吉本。マンガ家になる以前、映像畑で経験を積んでいたこともあるのか物語の構成は綺麗で上手い。

 今回の『ルーザーズ ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~』でも、その実力は遺憾なく発揮されていると思う。

 ベビーブーム世代の成長による青年層の増加という時代背景を青年漫画誌の誕生とリンクさせる手法。そこに、同時代の青年として苦闘していた、まだ無名のモンキー・パンチやバロン吉元を絡めていくという手法は、ルポマンガのお手本ともいえる。

 ただ、どうしても気になったのは、物語が極めて急ぎ足で進んでいたことである。創刊編集長である清水が鬼籍に入ってすでに長い。その名前は、マンガに詳しい人が知る人ぞ知るようなものになっている。

 その名前を再び掘り起こして歴史として記したことは評価されるべきなのだが、本題に早く入ろうとしているために清水の人物像の描き方が急ぎすぎている。作中では学生運動にも挫折した自省やロシア文学へ傾倒しているエピソードが挿入されはするのだが、さらっと流しているがために、ステレオタイプな1960年代の人間にしかみえなくなっている。

 また、焦点を「週刊漫画アクション」に絞っていたことでかえって当時の熱が描ききれなくなっている側面も感じる。双葉社というのは、徳間書店と並んで、いうなれば「戦後のドサクサ」に生まれた出版社。創業者は岐阜の米屋で、娯楽本は儲かるからと始めた商売である。その草の根のカオスな勢いゆえに、「週刊新潮」の創刊をみて、ならばと「週刊大衆」を創刊したりもしている。

 そんな会社なので好んで入ってくる者は少ない。作中では、小学館も講談社も落ちて仕方なくみたいな描写が幾度も繰り返される。

 でも、それを繰り返しているのに、金がなく落ちこぼれが集まるがゆえの野良犬感がイマイチ見えてこない。

 このように、作品を「マンガ家マンガ」ではなくルポ・ノンフィクションとして読んだ時にどうしても掘り起こしの甘さが見える。ラストが近づき取って付けたように矢作俊彦や植田まさしが登場するのは、むしろ登場させないほうがよかったのではないかと思う。

 こうなっている原因はやはり、この作品が創刊50周年記念として企画されたものだからであろう。第3巻の後書きを読んでも、それゆえの遠慮を感じる。吉本のルポ作品は構成力ゆえに、あらゆるエピソードを「いい話」で

綺麗にまとめてしまう力がある。ゆえにこのままでは泥臭さが脱臭されているようにみえて勿体ない。

 ここで終わらせずに、もっと個人を立てる形で続きを描いて欲しいなと思う。  

(文=昼間 たかし)

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