作者がフリーダム過ぎる! マンガ大賞2017『響~小説家になる方法~』授賞式レポート

■創作秘話もフリーダム!

作者がフリーダム過ぎる! マンガ大賞2017『響~小説家になる方法~』授賞式レポートの画像3柳本氏による公式イラストと、大賞の盾

 柳本氏の壇上トークは、『響~小説家になる方法~』誕生の経緯にも及んだ。小学館に口説かれた時点では何も連載テーマが決まっていなかったという。では、小説家というマンガでは珍しいテーマを扱い、あれほど濃密な作品はどうやって生まれたのだろうか。

 部活もしていないし、得意なことも好きなこともなかったという柳本氏。野球やサッカーなど多くの先駆者がいるメジャー系テーマは、自分にはやれない。かといって誰も扱ったことのないテーマで、作品に変な偏りを持たせたくない。

 そこで着目したのは、世間一般ではメジャーだけど、マンガではあまり扱われていない「小説・文芸」テーマ。小説の文章そのものは絵に描き起こせないから、誰も手を付けてこなかった。しかしキャラクターさえ活かせば、「このキャラなら凄いのを書いている」という説得力さえ持たせれば成立するのではないか、との考えに至ったという。

 マンガで小説家の物語を成立させる強烈なキャラクター、そして自身から湧き出す“圧倒的な天才を描きたい”欲求――これらが融合して生まれたのが、受賞作品のタイトルにもなった“響”という主人公だった。

 未読の人のために少し解説しておくと、『響~小説家になる方法~』の主人公は鮎喰 響(あくい ひびき)という名の高校生。セットしていない黒髪、メガネ、小柄といった典型的な文学少女の風貌に、読んだ者すべてを魅了する絶対的な文才を持つ。しかし並外れた感性ゆえか、初対面の相手に「生きてて楽しい?」と言い放つ、小競り合いした相手を本当に殺しかける、他人に自分を屋上から突き落とさせようとするなど、想像もつかない行動に出てしまうキャラクターだ。

 なお作者の柳本氏は、この特異なキャラクターを可愛いと思って描いていることが発覚。インタビューの場で「揉めたヤンキーの小指をぽっきり折っちゃう子って可愛くない?」と答えたりもしたが、なかなか他人から同意を得られないことに悩んでいるそうだ。

 作中の“響”に劣らない柳本氏の奔放な感性、フリーダムぶりは、その後も次々に明かされていく。「文学賞の取材には行ったことがあるか?」という報道陣からの質問に対し、芥川賞・直木賞の記者会見場に「作画資料を撮影するために行ってみた」と回答。編集部を通さずアポなしで行っても会場に入れるわけがないことに現地で初めて気づき、当然のように取材できなかったという。歴代のマンガ大賞は、綿密な取材に基づく作品が1位を獲得してきた傾向にあり、その点でも柳本氏の“アバウトすぎる取材スタンス”は異色といえるだろう。

 担当編集者である待永氏との出会いも“響”めいていた。2人がタッグを組む前、たまたま年末の謝恩会で待永氏が酔態をさらすところを柳本氏は目撃していた。そのため担当になることが決まった時、柳本氏は「あなたには担当されたくなかった」と言ったそうだ。初対面の相手へ歯に衣着せぬ物言い……ここまでくると“響”そのものではないか。

 それでも互いに信頼で結ばれ、編集者として柳本氏の中にあるものをフルに引き出し続ける待永氏。単行本は5巻まで発売されており、注目度はどんどん上がっている。メディアミックスの話も来ているとのことで、今後のさらなる展開を楽しみにしながら、過去最大級に暴露話の多かった授賞式レポートを締めくくりたい。

(取材・文/浜田六郎)

■「マンガ大賞2017」公式サイト
http://www.mangataisho.com/

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