『Pandora Hearts』の望月淳が贈る、吸血鬼×スチームパンクのダークファンタジー『ヴァニタスの手記』レビュー

 ドラマCDの発売を経て、アニメ化も果たして人気を博した前作、『Pandora Hearts』(スクウェア・エニックス)の完結から1年足らずで連載を開始した、望月淳氏の最新作『ヴァニタスの手記(カルテ)』(スクウェア・エニックス)が、またまた大ブレイクの予感である。あの有名な「アリス」をモチーフとした前作とは打って変わって、本作は吸血鬼を巡る物語だ。舞台は19世紀のパリ、テーマはスチームパンクというから、これは期待せずにはいられない。開始数ページで、その“スチームパンク”を象徴するデザインの飛空船が登場するが、これが繊細で非常に美しいのでまずは細部まで必見である。単行本第1巻の表紙カバーもめくってみよう!

 さて、まず紹介したいのは、主人公の一人であるノエ。銀髪で赤い目をした、吸血鬼である。彼ら吸血鬼には「真名(しんめい)」と呼ばれるものがあり、それは彼らの命そのものである。しかし、何者かによってその真名を奪われ、「改竄式」によって「禍名(まがつな)」に歪められてしまうと、“病気”が発症して吸血行為をしてしまうのだ。飛空船でノエが出会った女性・アメリアは、その病魔に侵されて吸血衝動を抑えきれず、ノエの血を吸ってしまう。本来、吸血鬼が人間の血を吸うことは禁じられており、処分の対象になるだのが、そこへ「ヴァニタス」と名乗る黒髪に青い目の青年が現れる。そう、彼はもう1人の主人公であり、自称・吸血鬼の専門医。ノエが目にしたその治療法は──!?

 蒼い革表紙に漆黒の紙、銀の鎖で繋がれた機械仕掛けの魔導書……ノエがわざわざパリまで探しに来た、その「ヴァニタスの書」を使って彼女を“治療”するヴァニタス。「逆演算」という方法で吸血鬼の真名を取り戻すのを目の当たりにした彼は、それが幼い頃に聞かされた童話に出てくる呪いの本などではなかったと感動する。しかしヴァニタスは、蒼月の吸血鬼からその本と名前を受け継いだだけの、「ただの人間」だった。蒼月の吸血鬼は、紅月の吸血鬼を滅ぼす死神となる、という言い伝えを聞いていたノエだったが、強引なヴァニタスの勢いに飲まれ、何故か彼と行動を共にすることになってしまう。

 この第1話で、望月淳氏の持つオリジナリティでありアイデンティティでもある、哀しみの連鎖の始まりを匂わされるからたまらない。「その旅路の果てに、彼をこの手で殺すまでの物語」だと言われて、そのまま本を閉じれる読者がいようか? 帯にコメントを寄せている『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)や『銀の匙 Silver Spoon』(小学館)などで知られるマンガ家・荒川弘氏も「望月さんずるいよこれ!」と言っているので、やはり誰から見てもそうなのだろう。アメリア事件後には、今後因縁の関係になると思われる吸血鬼・ジャンヌとの出会いがあるが、これもまた超絶なインパクトを与えられるに違いない。インパクトというなら、ノエの婚約者として登場するドミニクにも驚かされるだろう。徐々に明かされるノエの過去にも注目だ。

 おおむねコミカルに描かれる望月ワールドだが、やはりその奥深くに潜む影は、前作からの愛読者なら見抜いてしまうのではないだろうか? 普段はとぼけた顔のノエの戦う時の表情や、笑ってばかりのヴァニタスのいつもとは違う嗤い方など、伏線はいたるところに散りばめられている。1冊が案外厚みのある単行本なので、まだ第2巻までの発売だが、濃厚な内容を楽しむことができるだろう。来春に発売予定の第3巻が待ち遠しい。その先もラストまで、できれば哀しすぎる結末は見たくないのだが……もう始まってしまった彼らの物語を途中で投げ出すことは、読者である私たちさえできないのである。
(文/桜木尚矢)

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