『ゴールデンゴールド』(堀尾省太) 過疎の島にアニメイトがやってくる不幸……

『刻刻』によって、一躍注目マンガ家となった堀尾省太の新たな世界。『ゴールデンゴールド』(版元はともに講談社)の第1巻が発売となった。

 独自の作風や、新人賞(アフタヌーン四季賞)受賞から本格デビューまで12年かかった経歴などが注目を集める堀尾氏。この『ゴールデンゴールド』で、また話題を集めることになりそうな予感である。

 物語の舞台になるのは、瀬戸内海の小島。

 作中から察するに、尾道から海を渡ったあたりの小島のようである。このあたり、島をつなぐ「しまなみ街道」で観光地化されているところもあるのだが、舞台の島はまったくの過疎である。

 いわば、手垢のついていない風光明媚なひなびた島。そこで、これから地獄が始まるであろうことは冒頭に早くも提示されている。

 物語の語り手となるのは、中2の少女・早坂琉花。過去、学校に馴染めずに島に暮らす祖母のもとにやってきたと思しき彼女は、同級生の及川に恋心を抱いていた。

 そんな彼とのデートは、福山市にあるアニメイトへと出向くこと。船で尾道へと渡り、そこから山陽本線で福山へと、中学生にとっては結構な出費のデート。尾道でも買えるマンガをアニメイトで買うことに価値を見出す及川の価値観に戸惑いながらも、淡い恋心は、むしろ魅力にもなっていた。

 しかし、及川が進学先に大阪の高校を希望していると聞いたときに、彼女の心はかき乱される。

 そんなときに、海岸で拾ったのは、お地蔵様のような謎の小さな人形。それを祠に治めて、「島にアニメイトができますように」と祈ったときに、物語は動き出した。

 その謎の人形は成長し、人であるかのように動き出したのである。しかも、島の人にはそれが人形ではなく人間、オッサンのように見えているのである。そう見えないのは、もとが島の人間ではない、琉花。それに取材のために祖母が営む民宿に泊まっていた女流作家の黒蓮と、編集者の青木だけだった。さまざまな実験の結果、その人形は島の人間だけに利益をもたらす、福の神のような存在だとわかってくる。

 島のよろず屋は商品が次々となくなり、祖母の民宿は断るくらいに宿泊客がやってくるのである。

 だが、冒頭で読者には明かされた、それが幸福を呼ぶ存在ではないことも、次第に明らかになってくる。その存在を特ダネとして売り込もうとした青木は、東京に戻った途端に関係するすべての記憶を失ってしまう。祖母の民宿は、繁盛が止まらない一方で、その顔がどんどんと悪くなっていくのである。

 一巻を費やされて描かれた物語は、ほんのプロローグの様子。この先、富を得ることによって、どんどんの人心が荒廃していく様が登場することになるのだろう。

 物語のラストが安易にハッピーエンドを迎えたりする可能性など微塵も感じないわけだが、果たしてどんな富による不幸が描かれていくのか。
(文=是枝了以)

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