アル中バーチャル体験モノに無人島無慈悲サバイバルetc...

『アル中病棟 失踪日記2』『絶望の犯島』『刻刻』……村田らむが選ぶ2013年“買ってしまった”マンガ5選

 僕の部屋は狭いんで、紙の本を野放図に買っていたら、すぐに居住スペースがなくなって、しまいにはゴミ屋敷になってしまう!! なので最近では書籍は電子書籍を積極的に購入して、紙の本はあまり買わないようにしている。それでも、本屋を歩いていると、 「ああ、これは紙で欲しいわ~」 ってマンガを見つけてしまう。  というワケで、「2013年 紙のマンガを買い控えている村田らむが、それでも買っちゃったマンガ5選」を紹介します~!!

『アル中病棟 失踪日記2』
(吾妻ひでお著/イースト・プレス刊)
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 2005年に発売された『失踪日記』の正式な続編である。副題には、『失踪日記2』と書かれているものの、今回は失踪はしていない。失踪どころか、ずっと病院にいる。  僕はホームレスによく話を聞きに行くけど、アル中のホムレは非常に多い。アル中だから、仕事を干されてホームレスになった人もいるし、ホームレスになって自暴自棄でアル中になった人もいる。山谷とか西成に行くと歯が抜けて、死体みたいな顔色をしたオッサンが、ワンカップ片手に歩いている。つまり、ホームレスとアル中はセットみたいなものなので、作者が浮浪者になる失踪日記の続編が、アル中病棟なのはとても順当である。  本作では、アル中病棟で起きた出来事や人間関係が、とにかく丁寧に描かれている。つまりアル中病棟に入院した時の、バーチャル体験ができるわけである。  だから読めばアル中になりたくない!! と思うか……というとそうでもなく、修学旅行みたいで楽しそうだな〜と思ってしまった。看護婦さん全員かわいいしね。

『絶望の犯島 100人のブリーフ男VS1人の改造ギャル』
(櫻井稔文著/双葉社刊)
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 僕が描かせてもらっている実話系雑誌で、よく作品を描かれている桜壱バーゲン氏が、「櫻井稔文」名義で描いたのがこのマンガである。敬愛する先輩のひとりなので、半分義理みたいな感じで買ったのだけど……これが、マジでおもしろかった。  古くは小説『蝿の王』(集英社)、近年では実写映画化もされた『バトル・ロワイアル』(幻冬舎)、アメリカの人気テレビドラマシリーズ『LOST』といった、無人島無慈悲サバイバル作品群の系譜だけど、異色中の異色な作品だ。主人公は、性犯罪者を100人集めた島に送り込まれた“絶品ギャルに魔改造されたヤリチン男”という、非現実的なキャラクターである。しかし、主人公がなぜチャラく人生を生きてきたかなど、その生い立ちは非常にリアルに描かれる。そのアンバランスさがとても良い。続きがもっとも気になる作品のひとつである。

『全っっっっっ然知らない街を歩いてみたみのの』
(清野とおる著/大洋図書刊)
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『東京都北区赤羽』で知られる清野とおる氏が、赤羽から飛び出て、適当な街をフラフラと歩くマンガである。  僕も取材でいろいろな街に行く。特に最近行っているゴミ屋敷の掃除の取材では、実際にアルバイトに入って仕事をしているので、今まで存在すら知らなかった街にどんどん行かされる。今まで聞いたことすらない住宅街を歩いていると、「ああ、自分の見たことのないこんな街が、日本には、世界には、めっちゃくちゃあるんだ〜!!」と思って、ちょっとパニックを起こしそうになる。 『知らない街を~』で、作者が同じ感じで発狂しそうになっているのを見て、ちょっとうれしかった。そう、知らない街って、ちょっと怖い場所なのである。地域コミュニティーをのぞくけど、入りはしない。ちょっとだけ排他的で、他人行儀な感じが、なんとも楽しい作品だ。この本の一番残念なことは、行ったことのある街が少なかったことである。もっともっと、極めて普通で、何もない街を歩き回って欲しかった。続編を希望します。

『中国のヤバい正体』
(孫 向文著/大洋図書刊)
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 表紙には「中国人漫画家が命がけで描いた!!」と書かれている。  ノンフィクションを書いていると、さまざまな人たちに怒られることがある。僕もホームレスの本を書いて街頭でビラをまかれたり、未成年AVのレビューを書いて警察で事情を聞かれたりした。もうそれで、十分嫌だった。  僕は経験ないけれど、取材先などから訴訟を起こされるライターさんもいる。想像しただけでぐったりである。でもまあ日本では、その程度である。まず、殺されはしない。  しかし、この作者が敵に回しているのは中国である。そりゃもうヤバい国家である。どれだけヤバいかは……それこそ、この本を読めばよくわかる。「命がけで発言する」。その事自体がルポライターとしては評価されるべきである。ただ、マンガ家としては……がんばって、もうちょっと絵がうまくなるといいっすな。

『刻刻』
(堀尾省太著/講談社刊)
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 主人公の佑河樹里は、父兄がニート、隠居の爺さんに、母、シングルマザーの妹と甥と暮らしている。わかりやすく崩壊寸前となっていた一家が、時間が止まった世界“止界”の中で、闘いを繰り広げていく物語だ。  2008年から連載が始まって、現在7巻まで発売されている。この作品が堀尾省太氏のデビュー作だと聞き、「ええ〜!!」と驚いて、才能に嫉妬してしまった。  考えつくされた、綿密で濃厚なストーリーが展開されていく。登場する怪物のデザインにも度肝を抜かれたし、だんだん止界とはなんなのかがわかってくるのがとても楽しい。ひとつ難点を言えば、キャラクターの顔の描きわけがあまりできていないので、誰が誰かわかりにくいことだが、マンガのおもしろさで十分フォローできている。  現在、クライマックス寸前(だと思う)なので、ドドドッと一気に読めて楽しいと思う。そう、読むなら今しかねえ!!  というワケで、2013年に買った単行本の中から印象に残った作品を紹介してみた。 『刻刻』の7巻が最長で、あとは1巻完結モノや、まだ1巻しか出ていないマンガなので、気安く手を出しやすいかと。寝正月のお供に、みなさんも読んでみてはいかがでしょうか? それではよいお年を〜!!  あ、僕のマンガ『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)&『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)も、よろしくメカドック!! (村田らむ) ★「Kindleでも読める30年前の名作プレイバック」まとめ読みはコチラ
●村田らむ(むらた・らむ) 1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。現在は、太田出版のWEB連載サイト「ぽこぽこ」にて、マンガ家の北上諭志と共に『デビルズ・ダンディ・ドッグス』を連載中。 ●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/> ●『デビルズ・ダンディ・ドッグス』連載ページ<http://www.poco2.jp/comic/dddogs/

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