【今月の不健全図書レビュー】現実に比べりゃ随分と甘いよ 渡邉ダイスケ『善悪の屑』第4巻

――東京都をはじめ、地方自治体の「青少年・治安対策本部」では、毎月“不健全図書”を挙げ、自主規制団体らと共に審議を行っている。この審議結果は毎回公表されるものの、審査過程での自主規制団体の声が顧みられることはほぼない。エロにせよ何にせよ、どこか尖った作品を大の大人が色々な立場から評価するという、そんな貴重な意見が無視されるなんてもったいない! このコーナーでは、“不健全図書”に指定されたマンガなどを自主規制団体の声と共に紹介していきたい。つまり、クラウド・ファンディング(群衆による資金調達)ならぬ“不健全図書”クラウド・レビュー(群衆による批評)、はじまり、はじまり~!

【今月の指定図書】

 渡邉ダイスケ『善悪の屑』第4巻(少年画報社)は、第4巻がいきなり指定。これまで、指定されなかったのにどういう理由でしょう。

「ヤングキング」で連載中の、この作品は超ブラックな物語です。普段は古書店を営む主人公は、かつて強盗殺人で妻と娘を失った悲惨な人生の持ち主です。そんな彼は悪を憎み、相棒と共に法の裁きから逃れた悪人どもを裁く処刑人だったのであります。

 要はダークサイドな「仕事人マンガ」というわけですが、処刑方法は極めて残酷かつ複雑です。第4巻では、依頼者に復讐を行わせるシーンもあるのですが、子どもの足をダメにされた母親が、殺すのではなくアキレス腱を切ることで復讐を完了。そう、この作品の特徴は、ひとつひとつの描写が精緻でリアルに描かれていることです。それでいて、死体を大鍋で溶かしてトイレに流すシーンなどが登場するワケですから、残酷なのは確かでしょう。これに対して、いったいどういう意見が寄せられたのか?

(以下、別記のない限り、【】内は「自主規制団体からの聴き取り結果」より引用)

 読んでいて気持ち悪くなる単行本ではありますが、けっしてビックリドッキリなグロテスクではなく、すべてのシーンは必然性があるといえます。そのためか、指定該当意見は少なめ。指定該当6に対して保留1、指定非該当10と、指定非該当が結構多いのです。

 指定該当とする意見では【残虐性が強い。私刑を正当化している】【狂気的な部分や凌辱的な描写が多々あり、特に後半の子供を殺害するシーンは非常に問題がある。また、淡々とした殺人場面がかえって残虐性を増すようで、青少年に悪影響を及ぼす恐れありと思われる】【殺人や死体遺棄等の描写や表現などは残虐性が著しい。区分陳列して販売されるべき】と、とにかく読んだ時のショックが率直に寄せられています。

 でも、そんなショックの強い作品でありながら読み物として評価すべきと考える人も多かったようです。指定非該当という意見は、ショックを受けつつもじっくりと読んだのでしょうか【残虐あるいは痛ましい殺人や暴行等は、本書のテーマでもあるが、それ自体のみで不健全図書にあたるとすることは妥当ではなく、いかにそれが刺激的に描写されているかが問われるべき。その点において、暴力の日常性を表現するため、むしろ、抑制的な描き方をしている】【殺害シーンが多いが、刃物を扱うシーンでは体の一部だけの描写にするなど表現をとどめており、許容できる範囲】と、むしろ作者はちゃんと考えているのではないかと指摘するのです。さらに【頭の中で読者があれこれ想像したりするのは自由である】と、読者の受け取り方は様々だというまっとうな意見も。

 つまり、この本の指定をめぐる問題の焦点は、指定該当意見が「子どもが真似る」と危惧するのに対して、指定非該当意見が「現実のほうがもっと酷い」と見ていることでしょう。

 そのことは【本誌を見て、青少年に影響があるかというと、ネットでも実際に起きている事件など、本書以上に激しいものがあるため、指定する程とは思わない】という意見に集約されています。

 以前、出版業界のエラい人と最近の少年犯罪について話した時、その方の育った某地方都市では、昭和30年代はしょっちゅう同級生が殺されていたという話を聞いたのを思い出しました。いくら創作をしようとも、現実はもっと先をいっているものだと納得です。
(文=昼間たかし http://t-hiruma.jp/

【出典】東京都青少年健全育成審議会「自主規制団体からの聴き取り結果」より
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/668/668siryou2.pdf

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