『ちい散歩』的な“枯れ具合”が感動を呼ぶマンガ『東京おさんぽがーるず』

150807_osanpo.jpg東京おさんぽがーるず』(秋吉イナリ/白泉社)

 昨年、「ヤングアニマル」に連載していた『のら女子高生』が「色々あって現在続きが描けない状況ですが、まだ諦めてません」とブログにつづっていた秋吉イナリ氏が、同誌に短期連載した『東京おさんぽがーるず』(いずれも白泉社)がようやく単行本になりました。

 全七話の作品には「台東区上野」「中央区築地」など、東京の地名がついています。散歩をテーマにした作品といえば、『孤独のグルメ』(扶桑社)の久住昌之氏・谷口ジロー氏による『散歩もの』(フリースタイル)が思い浮かびます。この作品は『孤独のグルメ』と同じく、中年男がひとり散歩の中で発見をしながら自省をする作品でした。対して、『東京おさんぽがーるず』は、散歩によって得た感動が人生を広げていく作品です。

 ヒロイン・野々花は内気な性格で、大学に入って一週間になるのに友達がいません。そんな彼女が授業のない日、一日を過ごそうと思って訪れたのは上野動物園。けれどもあいにくの休園日で、がっかりした野々花はずっと下を向いて歩きます。「東京に住んでても…私には行きたいとこなんてない」と心の中で呟きながら。この子、大学に入って一週間なのに「一人でご飯食べるのやだな」と、大学に行くことすら躊躇しています。

 そんな彼女が偶然出会ったのは、上野公園で忍者の真似をして池に飛び込んでいたハーフの少女・サンディ。そのまま散歩することになった二人ですが、旧寛永寺の五重塔(上野動物園の中にあります)を見上げた時、野々花は気づくのです。「ただ顔を上げるだけで……よかったんだ」と。こうして視点を変えれば、あるいはちょっと路地裏に入れば、それまで気づくことのなかった感動に出会うことができるかもしれない。そんな小さな幸せを描く物語は始まります。実は同じ大学だった二人が「東京さんぽ部」を結成する形で。

 物語の中では、特別なことは何も起こりません。二人はただ散歩をしているだけです。ネットで見つけた美味しい店を巡るだとか、オシャレな場所を探して歩くとか、そうした目的はありません。ただ、行ってみたいところを気の向くままに歩くだけ。なぜなら、気の向くままに歩くことで、誰かから教えられたのではない発見に出会えるからです。

 それが際立つエピソードは「中央区築地」の回でしょう。築地といえば築地市場の見物がテーマになるかと思いきや、二人がたどり着いたのは市場はとっくに終わった午後3時(途中の寄り道が多すぎたのです)。でも、テレビなどで流れる、活気ある市場とは違う静まりかえった雰囲気に、二人は間もなく移転で消え去ろうとしている築地市場の歴史の重みを知ります。

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