週刊アニメ時評 第33回

『けいおん!』制作陣集結の『たまこまーけっと』が陥った、“完璧すぎる理想の日常”の落とし穴

【日刊サイゾーより】

 『涼宮ハルヒの憂鬱』をはじめ、『けいおん!』『氷菓』『中二病でも恋がしたい!』など安定したクオリティのアニメをコンスタントに発表し続け、今日のアニメシーンにおいて欠かせない存在となったアニメ制作スタジオ・京都アニメーション。その最新作である『たまこまーけっと』も、多分にもれず高水準な作画と脚本・演出で我々視聴者を毎回楽しませてくれている。

 本作のメインスタッフは、監督・山田尚子、キャラクターデザイン・堀口悠紀子、脚本・吉田玲子という『けいおん!』を手掛けた女性スタッフたち。彼女たちの手によって、うさぎ山商店街の愉快な面々が繰り広げる日常風景が描かれる。言葉を話す謎の鳥デラ=モチマッヅィというファンタジックなキャラクターも存在するものの、基本的には普通の人々が織りなす普通の物語を描く『けいおん!』直系の日常アニメとなっている。

 そんな『たまこまーけっと』では、「活気あふれる商店街」「優しすぎる隣人たち」「穏やかな日常」といった、現代の日本ではおそらくほぼ消失してしまったであろう「理想の日常(とコミュニティ)」が描かれ続ける。

 この理想的すぎる物語に、違和感と空々しさを抱いてしまうのは筆者だけだろうか? 今時こんなに明るくて活気ある商店街なんて日本全国を探してもそうそうないだろうし、誰が何をしても笑って許してくれる街の人々や、色恋沙汰もなければ友達との大した諍いもない学校生活なんて、毒がなさ過ぎてむしろ不気味だ。ここに、『けいおん!』が劇場版および原作コミックの続編「college編」で露呈させた「日常アニメがその半径を広げれば広げるほど、日常を描けなくなる」に通じる問題点を感じてしまう。

 ほぼ軽音部(および、それを取り巻く学校)という閉じたユートピア内での物語を描くことに徹していたTVシリーズと原作コミック『けいおん!』には、小さなコミュニティにフォーカスすればするほど、その外界にはアニメを見ている視聴者と同じ「現実」が存在しているという想像力が作品にあった。この想像力が効果的に発揮されたのが第2期『けいおん!!』終盤である。軽音部のメンバーたちが送る、取るに足らない、しかし何物にも代えがたいモラトリアムである「理想の日常」はやがて終わりを迎え、近い将来「現実の日常」という外界と向き合わねばならないというシビアな想像力が物語に説得力をもたらし、多くの視聴者に登場人物たちへの感情移入を促した。

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