なぜ“クラウドファンディング”を選んだのか? 『この世界の片隅に』片渕須直監督ロングインタビュー【前編】

――そもそも、「世界を再現するレベルで制作をする」という意志が生まれたのは、なぜでしょうか?

片渕:たぶん、『マイマイ新子と千年の魔法』が、すでにそういう感じのものだった。『マイマイ新子と千年の魔法』の舞台は、実在する山口県の防府市なんですよね。

 作品中で主人公・新子のおじいちゃんが、ここには千年くらい前に周防国の都があったんだ、って言う。でも、その都がどんな形だったか、まったく述べられてない。だけど、アニメーションの中では、空想の世界までイマジネーションが広がっていくところをちゃんと描いたほうがいいだろうって思ったんですよね。

 それで、防府市にロケハンに行ったら、たまたま発掘調査をやっていて、その遺跡が国司の館で、しかも清少納言が子どもの頃に住んでいた館である可能性が高いと。原作小説には登場しない平安時代の少女と我々は出会うことができちゃったんです。ものすごい偶然の引き合わせです。しかも、清少納言は平安時代きっての随筆家で、日常の細部を文章に書き残した人ですよね。彼女が書いた『枕草子』を読み直すと、細かい当時の機微が伝わってくる。千年前にまで世界が広がっていっちゃう。

 今その遺跡は保存のために埋め戻されて田んぼに戻っちゃってるんだけど、そこに行くこともできる。フィルムの中だけの限られたもの、映像の中で完結する以上のものがあるのはいいなぁ、という感じがしました。しかも、同じ場所であっても年月で姿が変わってますから、想像力を膨らます余地もある。どんどん広がって心を働かせる余地を、ほんとはみんな求めてるんじゃないかなあ。

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 そう語る片渕の姿から感じられるのは、現実と想像との交錯。二次元と三次元が境界を超えてつながることの喜び。あるいは、楽しみである。空想のものである作品が、現実と接点を持つ瞬間。近年、作品の定番的な楽しみ方になった“聖地巡礼”でも明らかなように、それは鑑賞者に喜びを与えてくれる。けれども、そのための作業の連続は、まったく金銭的にはプラスになるものではない。正直、片渕の才能であれば、そんなに苦労して作品を作らずとも、もっと楽に金銭と名誉を得る選択もあったのではないかと思う。そこまで苦労を重ねて制作をしたいという原動力は、どこから生まれたのか。

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片渕:まあ、ここまでのところ収支は全然合ってないですね(苦笑)。持ち出しで食いつないできた期間が長かったわけで、貯金を切り崩してここまでたどり着いたという感じです。最終的には、下準備にかかった経費のどっかまでは制作費の予算に計上してもらわないと困るな。でも、それはいろんなことが満ち足りた最後でしょうね。

 なんかね、仕事としてやるのであっても、自分が描きたいものだけをやりたいなと思うわけです。これまで携わってきた作品は、人から与えられた材料なんだけど、その中に納得できるもの、「こういうのを描きたいな」というのを見つけながらやってきたと思うんですよ。見つけられれば、テレビアニメ『ブラックラグーン』とかゲーム『エースコンバット04』みたいに、これまで自分が手がけてきた作品とはまったく毛色の違う作品でも躊躇しなかったです。

 でも、携わってきた作品の中でも『名犬ラッシー』とか『マイマイ新子と千年の魔法』とか、どちらかというと「生活」を主軸とする、日常の中にあるちょっとした面白さというのを描いているものがあって、それが自分の主軸だという思いもあった。そうしたものに(『この世界の片隅に』原作者の)こうのさんが反応していてくださったのは、大きかったです。こうのさんはそうした作品作りが茨の道を切り開いてゆくような作業だとも見てくださった。こうしたものをこそ描きたいと思った物語の原作者が、こちらのやってきたことの一番の理解者だったんですね。『この世界の片隅に』のアニメ化は、そういった相互作用があった上でのことだと思うんですよ。

(取材・文/昼間 たかし)

【後編は5月24日(日)公開】

■「片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援」
https://www.makuake.com/project/konosekai/

■片渕須直
1960年、大阪府生まれ。日大芸術学部在学中から宮崎駿作品に脚本家として参加し、虫プロダクションなどを経て86年、STUDIO4℃の設立に参加。その後、マッドハウスを経て、MAPPAを中心に活動中。監督作として『名犬ラッシー』『アリーテ姫』『ブラックラグーン』『マイマイ新子と千年の魔法』など。

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