なぜ“クラウドファンディング”を選んだのか? 『この世界の片隅に』片渕須直監督ロングインタビュー【前編】

■アニメーションで「物語の中にある世界をいかに描くか?」

1505_katabuchi_image1.jpgアニメ『この世界の片隅に』の中で描かれる広島市中島本町。
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

――現在、パイロット版の制作を急がれる理由を教えてください。

片渕:パイロットっていうのかどうなのか、二種類考えていまして、ひとつは作品のあちこちからカットを抜粋した作品紹介的なものなんですが、もう一つには、物語の舞台は戦時中の呉なんですが、冒頭で戦前の広島市中島本町を描いていることがありまして。

 原作ではあえて説明が避けられていて「中島本町」という単語がちょっとだけ出てくるだけなんですが、ここは実は今は平和記念公園になっているところなんです。今は原爆が落ちて何もなくなってしまった跡が公園になっているんですが、元々は広島で一番か二番に「鈴蘭灯」という街灯がついたとかの、すごく賑わっていたところでした。そこを、主人公のすずさんが子どもの頃に訪れるというのが冒頭のエピソードなんです。“戦前にあったけれど、今は姿が失われてしまった町”を画面に再現してみているんです。

 この街に暮らしていたけど、学童疎開などで原爆に遭わなかったという方がけっこうおられます。そういう方たちに「ここまで町並みを描きましたけど、これで合っているでしょうか?」というのを、繰り返しチェックしてもらっていて、ようやく、こういう絵(上画像参照)まで描き上げたんですね。(そういう方々に)話を聞いていると、「ここでどうやって遊んだ」とか「ここでみかんを焼いた」「裏のほうに川があって、何を採って遊んだ」とか、そういう自身の子ども時代のお話になってゆく。大切な場所なんです。このシーンは、そういう方たちにこそ、まず見てもらいたいなと思っています。そこを今年の夏までには、なんとかまず作ろうと。時間に追われているのは、そこなんですよね、この方たちはもうすでにかなりご高齢になっています。映画館に足を運ぶのが難しいほどに、です。早く見てもらわないといけない。まずその部分の映像を作ってしまいたいです。

 幸い、クラウドファンディングがうまく推移した結果、製作状況が好転しましたので、そのためのスタッフを現場に加えることができそうになってきています。クラウドファンディングをやって良かった点のひとつです。

――すでに当時の住民の方々を訪ねていらっしゃるということですが、「広島をアニメーションで描くこと」に対しては、どういう反応なのでしょう?

片渕:広島の場合、「町並みを映像上で復元しよう」というプロジェクトがいくつかあるんですけど、基本的にはCGで、なんですよね。そういうプロジェクトの方でも、同じ方々に当時の町並みのお話の聞き取りに来ています。ただ、我々のは手描きの絵ですので、ご高齢の方からは「あたたかみがあるね」と言ってもらえることも多くて、ほっとしてます。

※※※※※※※※※

 この5年近くの間、片渕は資料を集め、現地の人々とも交流しながら、失われた町の再現を試みてきた。通常のアニメーション作品に比べると、その資料も労力も膨大だ。片渕自身が執筆する「WEBアニメスタイル」の連載「1300日の記録」(外部参照)には、その過程が詳細に記されている。

 けれども、ここで「待てよ」と思う人もいるのではなかろうか。アニメーションにもかかわらず、想像で補うのではなく、可能な限り現実に近づけようとする――なぜ、そのような過程が必要なのか? と。

※※※※※※※※※

片渕:そう、元来アニメーションは空想を描くものですから、それほど現実と接点を持たなくても、本来はよかったりする。でも、『この世界の片隅に』は、現実との境界がボーダーレスな作品なんですよ。原作のマンガには「広島のどこどこです」と明確な場所、あるいは正確な時間は描かれていませんが、明らかに現実にあった場所だとか、現実に起こった事件だとかを、解釈も説明もせずに描いている。

 原作では各話のタイトルが「何年何月」となっていますが、日にちまでは書いていない。でも、その年その月の中で雪が多かった日、大和が呉に入港した日など、さまざま調べ直してみると、作中で描かれている日にちがわかってくる。そうすると、「ああ、じゃあ、この日の天気はこれだから、この時の空気の肌触りは……」みたいなのまで、わかったりしてきちゃう。あのマンガは、その中で主人公を動かしてるんです。

なぜ“クラウドファンディング”を選んだのか? 『この世界の片隅に』片渕須直監督ロングインタビュー【前編】のページです。おたぽるは、インタビューアニメ話題・騒動の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!