「アニメーションってこんなに豊かな世界なんだ!」『つみきのいえ』アカデミー賞作家・加藤久仁生インタビュー【前編】

■アニメーションスタジオCAGE誕生『或る旅人の日記』がshockwave.comで異彩を放つ

1502_katou3.jpgアニメーションスタジオ・CAGE。現在はロボット本社の地下にある。

『ROBOTTING』で共作したマンガ家・イラストレーターのクリハラさんは、ゲーム『塊魂』のキャラクターデザインを手がけるなど、グラフの同期生として活躍している。片山教授にゲストとして呼ばれた先述の野村さんもグラフの出身であり、こちらは大学卒業後に縁が発生することとなる。

加藤「(大学時代には)全然就職活動をしてなくて、『ひとりでちょこちょこやってこう』とかぼんやり考えていたところ、同期の(アニメーション作家・)坂井治くんから『野村さんが、誰かアニメーションできる人を探している』と連絡が来ました。当時、野村さんはNHKの『プチプチ・アニメ』で『ジャム・ザ・ハウスネイル』【編注:家を背負ったカタツムリのような生きものが主役のコマ撮りアニメーション】を作っていて、その手伝いの募集だったんですけど、僕は立体(コマ撮り)をやったことがなかったから、どうしようかと迷いました。

 坂井くんは在学中からアルバイトで野村さんの手伝いをやってたんですが、卒業後は別のCM制作会社に就職していたので、僕に話が回ってきたんです。結局、短期のアルバイトって感じで『ジャム・ザ・ハウスネイル』を手伝うことになったのはいいんですけど、キャラクターの形に合わせて一つの樹脂を切るってだけの簡単な作業を丸一日かけてやってるっていう……。後々野村さんに聞いたら、『たったあれだけで一日かかっちゃうんだ(笑)』って思ってたみたいで。それくらい全然役に立たない存在でした。でもプロの現場、特に立体アニメーションの撮影を見てるだけでも面白かったです。

 それが終わって1カ月後くらいに、また連絡が来ました。それまで野村さんは、1人で工房のような感じでCAGE【編注:映像制作会社ロボットのアニメーションスタジオ】をやってたんですが、『ロボットの中で、アニメーションを制作できるスタジオを作りたいと考えているんだ』という話で。CAGEをもう少し広げたいと。それでまずは僕が入ることになって、野村さんのアシスタントみたいなことをしていました。そしたら1年後に坂井くんがCM制作会社を辞めて、ちょうど京都から(映像作家の)稲葉卓也くんが上京してきて。そんなタイミングが重なって、結局その4人になった。(当時CAGEの)スタジオとして古い一軒家を借りたのも、その流れですね」

 こうして、4人体制となったCAGE。最近は“Anime”のオリジナル企画が増えてきているが、まだまだ“Animation”でオリジナル企画を立てられるスタジオは珍しく貴重である。CAGEではオリジナル企画以外でも所属作家の特性を活かせることから、“Animation”のテイストが持ち味のクリエイターにとっては憧れのスタジオとなっている。

 坂井さんはNHK『みんなのうた』の『金のまきば』『PoPo Loouise』などで知られる(ちなみに『金のまきば』は自身の卒業制作が元)。稲葉さんはNHK BSのキャラクター・ななみちゃんのデザインやスキマスイッチのPV『アカツキの詩』などで知られ、短編『ゴールデンタイム』では第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞した。

加藤「1年ぐらいは野村さんのアシスタントという感じでしたが、プロデューサーから『shockwave.com』でFlashというソフトを使った短い映像コンテンツをやってみないかという話が来ました。最初は野村さんが脚本で、自分は絵で、という話もあったのですが、野村さんから『1人でやれるようだったら、やってみない?』って言ってくれて。はじめは野村さんに少しサポートしてもらいながら作り始めました。

 紙で描いた鉛筆の素材感を残しつつ(スキャン後に)Photoshopで色を塗るという(僕の作品の作り方は)Flashの特性からすると無茶な使い方なんですけど、何か(ほかの作品とは)違ったテイストのものを作れないかなと。Flashもそうですが、ペンタブレットも初めて使って、デジタルも画材の1つとして使う感じでした」

 そうして制作された『或る旅人の日記』は、03年より「shockwave.com」で配信が開始。加藤さんの思惑通り、数ある作品の中でも異彩を放ち、サイト内で目立つことに成功した。
 
「shockwave.com」は、DirectorやFlashなどのソフトを開発するマクロメディア(アドビが05年に買収)が1999年に開設したサイトで、同名の関連会社による運営でサービスが開始となった(日本版は翌2000年に開設)。同サイトでは、Flashを利用したゲームやアニメーションから、実写のショートフィルムまでを楽しむことができた。アニメーションでは『CATMAN』(青池良輔)や『うるまでるびGOLD』など、ゲームでは同じくロボットの企画である『ZOO KEEPER』などが人気だった(後にNHK・みんなのうたでヒットする『おしりかじり虫』は、『うるまでるびGOLD』の中の1作が元)。
 
 そして04年、『或る旅人の日記』のDVDを発売。加藤さんの使用ソフトは、本作の特典エピソードの『赤い実』からAfter Effectsに移行する。

加藤「(『赤い実』は)After Effectsを使える後輩に教えてもらいながら作りました。(DVDへの収録用だから)ファイルサイズを気にせずに、キャラクターの芝居が細かくできるという面白さもありましたね。『shockwave.com』での公開はswfファイルで1話あたり3~4MB以内(という制限)で、そのうち音声ファイルで1MBは(容量を)取られますし、音楽を担当した栗コーダーカルテットの近藤研二さんも音質の低下に苦慮してましたから……」

 ここまでは、『つみきのいえ』でのアカデミー賞受賞前夜までの半生を追ってきた。後編では、いよいよアカデミー賞受賞の話や今後の活動についてを伺う。
(取材・文/真狩祐志)

後編はこちら

■KUNIO KATO OFFICIAL WEB SITE
http://www.robot.co.jp/staff/kunio/

つみきのいえ (pieces of love Vol.1) [DVD]

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後編で本作についても聞いていきますよ。

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