『STAND BY ME ドラえもん』まさかの大ヒット! その人気の秘密をオタ的目線で分析

1409_doraemon.jpgSTAND BY ME ドラえもん公式サイトより。

 現在テレビアニメ35周年キャンペーン中の国民的マンガ&アニメ作品『ドラえもん』。日本人なら誰もが一度は見たことがあるこのアニメを、原作者である藤子・F・不二雄先生の生誕80周年を記念してフル3DCG映画として製作されたものが、山崎貴・八木竜一監督による『STAND BY ME ドラえもん』です。

 製作が発表された時点では、アニメファンのみならず一般層からも「CGでドラえもん映画?」「トヨタのCMの続きっぽいよね」的ネガティブ意見が多かったものの、フタを開けるとこの夏の映画の興行収入をダントツで更新。

 9月29日発表の興行通信社のランキングによれば、全国動員集計は公開8週目にしていまだ3位。9月17日の「日刊スポーツ電子版」によれば興行収入70億2415万8300円、動員529万3090人を記録したと報じています。(外部参照) また本作を見て感動して観客が感極まって泣いてしまう“ドラ泣き”なる現象も大流行している模様。

 従来のアニメ映画の枠にあてはまらない、もはや異常と言っていいくらいのヒットを記録している本作ですが、いったい何がここまで人々の心を惹きつけているのでしょうか? 本稿では、その人気の秘密をオタク的見地から検証解析してみようと思います。

※以下、“ネタバレ”が含まれていますので、ご注意ください。

■ルーツから終結までを一気に再構築! “誰も見たことがない”ドラえもん世界

 物語は、のび太の子孫であるセワシが現代ののび太の元に現れ、ジャイアンの妹・ジャイ子とのび太の結婚による野比家の没落を阻止し、しずかちゃんとの結婚を成功させ一族の将来を安泰に変革すべくドラえもんを連れてくるという大変よく知られたシチュエーションから始まります。ここで「14年後の未来で、しずかちゃんとの結婚を取り付けなければならない」という本作におけるミッションが示されます。

 その後ストーリーは、中に入った後外に出ると最初に見た人を好きでたまらなくなる「刷りこみたまご」を使って、無理矢理しずかちゃんにのび太へ好意をもたせようとするエピソード(原作では「たまごの中のしずちゃん」)を経て 、未来世界の雪山で遭難したしずかちゃんをのび太が救出に向かうエピソード(原作では「雪山のロマンス」)を描き、のび太のプロポーズを受け入れたしずかちゃんと青年のび太が結婚するまで(原作では「のび太の結婚前夜」)で大きな山場を迎えます。その後、舞台は現代へ戻り、ジャイアンとのケンカに立ち向かうのび太の成長を見届けたドラえもんが未来に帰る(原作では「さようならドラえもん」)ものの、あるひみつ道具を使って再び現代へドラえもんがやって来る(原作では「帰ってきたドラえもん」)エピソードで終わりとなっています。

 さて、この映画最大の特徴は、従来の『のび太の恐竜』『のび太の海底鬼岩城』といったテレビアニメから派生した長編オリジナルの物語ではなく、原作コミックからセレクトされたエピソードを元として、一本の映画へと再構成しているところにあります。

 一般的には『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』、『クレヨンしんちゃん』といった終わらない日常を描くアニメと思われている『ドラえもん』ですが、今回の試みは『ドラえもん』というコンテンツのルーツから終結までを見せてしまうという、いわば“エピソード・ゼロからファイナルまで”を映像化した野心的な企画だといえるでしょう。

 そこで原作マンガのエッセンスを拾いつつストーリーをまとめ上げるための基本的な骨子として、SF映画でよくあるテーマの一つ「歴史改変物」の形態を取っています。エンターテインメント志向の強い山崎貴監督は自作を構成するにあたって、ときに洋画にイメージソースを求めることがあります(例えば『SPACE BATTLESHIP ヤマト』の戦闘描写や敵異星人の描写は、米テレビドラマシリーズの『GALACTICA/ギャラクティカ』を参考にしたとされます)。今作ではおそらく「主人公の子孫が未来でトラブルに巻き込まれるのを回避すべく未来へ向かう」という『バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2』あたりを参考したのではないかと思われます。高速でエアカーの行き交う未来世界の描写などに、そのイメージの片鱗が見て取れるのではないでしょうか。加えて今回の映画でチョイスされた原作のエピソードは、個別に単発でアニメ化されたことはあるものの、一つの連続した流れの中で映像化されたことはありません。

 こうした【1】「原作マンガの物語要素の取捨選択」に加え、【2】「キャラクターを3DCGで描くという新しい手法」【3】「毎週のテレビ放送でおなじみの声優の方々の演技」を合わせた結果として、本作は“誰もが知っているが、今まで誰も見たことのないドラえもん世界”の構築に成功したといえるのではないでしょうか。

■やっぱりこれは外せない!? 失われた過去へのノスタルジアを感じさせるギミックも

 さらに付け加えるならば、本作には昨今の泣かせ系映画・ドラマでよく見られる「失われた過去へのノスタルジア(昔はよかった志向)」要素も十二分に取り入れられています。かつて山崎監督は『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズにおいて、舞台となる昭和30年代初頭の下町の風景を「日本人共通の失われた郷愁のふるさと」的に描いて大ヒットを記録しました。

 原作マンガではドラえもんがのび太の元へやってきたのは1970年初めとされていますが、本作ではのび太の部屋にあった「コロコロコミック」の表紙に大ヒットマンガ『ゲームセンターあらし』が描かれていたところからして、時代設定はだいたい80年前後、昭和50年代半ばだと見て取れます(『ゲームセンターあらし』の連載は79年から83年まで)。当時読者だった小学生は約35年後の現代では30代半ばからアラフォー世代となるわけであり、かつてシニア世代が『ALWAYS』に心揺さぶられたように、ミニチュアとCGの合成で精密に再現されたのび太と仲間たちの住む昭和末期の町並み=自分たちの子供時代の雰囲気に郷愁を感じる、というギミックが用いられているというわけです。

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 このように本作『STAND BY ME ドラえもん』は、現在の邦画市場でヒットする要素を十二分に吟味した上で盛り込んだ、ヒットすべくしてヒットした作品であるといえるでしょう。

 余談になりますが、先の当時の「コロコロ」読者がいわゆるロスジェネ世代と重なっていることも考えれば、映画序盤で提示される将来ののび太は大学受験に失敗し事業を起こすもうまくいかず、ジャイ子と結婚するも会社が火事になり借金取りに追われる生活を見せつけられる……という原作マンガでお馴染みのシーンを、現代の世相と照らし合わせると洒落にならない感じがします。ここで肝を冷やした観客も多かったのではないでしょうか(笑)。

 最後に、去る9月23日は藤子・F・不二雄先生のご命日でした(1933生-1996没)。この夏、日本中からかつてないほどの観客が映画館に押し寄せ、感動を共有した本作『STAND BY ME ドラえもん』をもし天国の先生がご覧になられたら、どう思われたか……? どんな感想を述べられたか……? それは何人にも知ることができない永遠の謎といえるでしょう。
(文/出口ナオト)

(ビームスティー) BEAMS T STAND BY ME ドラえもん×BEAMS / Tee 11081147349 1 WHITE M

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トヨタ自動車社長、森ビル社長、小山薫堂氏、秋元康氏など…CMの出演者がとってもステキね!

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