ろくでなし子氏逮捕に見る警察当局の思惑 表現規制反対派が直面する新たな正念場とは?

 そんな北原氏だが、今回のろくでなし子氏の事件を受け、自身のTwitterでは「なし子さんの作品が猥褻物にあたるとは思わない、という内容の上申書を書きました」「猥褻か猥褻でないかの、終わらなき不毛な闘い、始まってしまった」と、逮捕を真っ向から批判する主張を行っている。これに対して、従来から北原氏に批判的な主張を行ってきた人々は「オタク文化をポルノとして弾圧したがるくせに」「表現規制対象の決め方も、随分と恣意的なようだ」という批判がなされている。

 この混沌とした状況から見えてくるのは、すべてが警察当局に踊らされているという事実ではないだろうか。北原氏への批判は一旦置いておいて「表現の自由」を軸に警察当局を批判すべきという意見もあるにはある。けれども、もはや問題は「表現の自由」とは別のところで炎上を始めている。性器をモチーフとするのは、「現代アート」とやらの専有物ではない。それこそ、縄文時代の石棒から神奈川県金山神社の「かなまら祭」や愛知県田縣神社の「へのこまつり」まで、多数存在することから見ても、逮捕が恣意的なことはおのずと理解できる。

 ところが、警察当局への批判ではなく、それが弾圧された側の言論への批判へと向いている事実。最初からすべてが計算ずくであったような陰謀論的な考えは避けたいが、このタイミングで逮捕を行えば、批判は自分たちの側からそれるという判断が警察当局にあったことは容易に想像できる。

 二次元規制だけはなんとか阻止した児童ポルノ法改定案が成立して以降、オタク文化に内包されるエロに批判的な言論に対しては、ほぼネット限定で過剰な「叩き」が繰り返されてきた。これはまさに表現の規制派と規制反対派は表裏一体の存在であることを示した事象だったが、今回の逮捕はそれが最悪の形で利用されたといってよいだろう。

 現状、ろくでなし子氏を擁護する論にはさまざまな問題もある。インターネット上の署名サイト「Change.org」では、即時釈放を求める署名が行われており、7月17日現在で1万9000筆を超える署名が集まっている。ただ、この署名の呼びかけ文は精査が行われていないのか、問題のある記述も見受けられる。例えば『ろくでなし子氏は性的タブーに挑むという趣旨でご活動し、そのコンセプトを明確に説明しておりますので、氏の作品は性的搾取や嫌がらせを目的とした「わいせつ物」とは異なります』が、それだ。この文章を執筆したロジックによれば、制作者の意図が“エロ目的”ではないのだからワイセツではないということになる。これでは「芸術」と、従来のワイセツをめぐる事件の主な対象になってきたアダルトメディアとを分断する意図があるのではないかとも、受け取られかねない。ただ、慌てて作成したという事情を考えると、文章の稚拙さをやり玉に挙げ続けるのも、権力の思うつぼだろう。

 所詮、体制内の運動は権力の網から逃れきることができないということを示した今回の事件。果たして、原則論に立ち戻って批判の牙を警察当局に向けることができるのか、意外なところで表現規制反対派の正念場がやってきたのではないだろうか。
(文/昼間 たかし)

監獄の誕生―監視と処罰

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”不快”などの主観を根拠に「規制」を叫べばブーメラン。相互監視が規制を加速させるかのような…。

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