「セックスを通じて自我の形成を描きたい」実写化されたマンガ『うわこい』作者・糸杉柾宏が“性”を描く理由

 マンガ『あきそら』(秋田書店)など、性をテーマにした作品で知られる糸杉柾宏の『うわこい』(少年画報社)が、実写映画として公開中だ。本作のテーマは「浮気」。幼なじみの女の子・ユノと公認のカップルとして一緒に暮らすユキテル。そんな彼が、ある日同級生のレナと関係を持ったことをきっかけに、次々と「浮気」の関係に溺れていくという物語だ。

 大胆な濡れ場も多い『うわこい』、まさかの実写化にあたって、原作者である糸杉柾宏氏に話を聞いた。

「セックスを通じて自我の形成を描きたい」実写化されたマンガ『うわこい』作者・糸杉柾宏が性を描く理由の画像1実写映画化された『うわこい』作者の糸杉柾宏氏。

――まず、マンガ『うわこい』はどういうきっかけで始まったんですか?

糸杉 本当タイミングですね。たまたま当時「月刊ヤングキング」(現・月刊ヤングキングアワーズGH/少年画報社)の編集さんと知り合って、声をかけてもらって。それで実際すぐ連載というのはなかなかないんですが、お会いしてすぐ雑誌を送ってもらうようになったんですね。これは編集さんも本当にやる気なんだなと。

 それと、送ってもらった雑誌が面白かったんですよ。「ヤングキング」のヤンキーマンガって絵がうまいのに加えて、読みやすいんです。

 それで、そこでラブコメ的なものをやりましょうという話になったんですね。要は“拳で語るか”、“チンコで語るか”の違いだけでヤンキーマンガもラブコメも変わらないんだ、ということに無理矢理して(笑)。だから、『うわこい』はヤンキーマンガのつもりで描いてます。

――ヤンキーマンガですか(笑)。

糸杉 ほら、ヤンキーマンガって河原と神社で喧嘩するでしょ? だから、『うわこい』では河原の高架下でセックスしてる(笑)。ただ、男同士は殴り合ったら友情が芽生えたりするけど、セックスはね。そのあと愛憎劇しかなかったりするから。でも、そこが好きなんですよね。前作の『あきそら』にしても、エロい部分が好きっていう人もいるんですが、内容的には愛憎劇なんですし。

――今作は浮気というのがテーマですけど、結構複雑ですよね。最初は幼なじみで恋人とされるユノがいて、それに対する浮気という感じですが、途中からほかの女の子も出てきて、もう誰が本命でどれが浮気なのか……。

糸杉 シンプルにいっちゃえば、『うわこい』はユノが本妻だったものが、浮気することで本妻が(ほかの娘に)変わっていくというお話なんですよね。“好き”っていうことがどういうことか、あとから気づいてしまった男の悲哀というか……。ユノは幼なじみとして当たり前のように隣にいて、「大好き」って言い合っていて、そんな関係で高校生くらいまで過ごしてきたわけです。その関係が一人の女の子の登場によって壊されてしまう。人間が浮気するのって、そんなちょっとしたきっかけなんですよ。

――糸杉先生は前作の『あきそら』でもセックスというのを大きく扱っていて、結果東京都の青少年健全育成条例改正時に名指しで取りざたされたわけですが、セックスにこだわるのはなぜなんでしょう?

糸杉 僕は性って自我の形成において必須……必然的に必要な要素だと思ってるんです。人間って家族の間におさまっているうちは、異性とは関わらないわけです。親兄弟に異性がいても、それは基本的に異性とは認識しないので。本当の意味で異性、他者に出会うのって性を通してしかあり得ない。セックスを通じてしか自我というのは形成、成長というのはできないんじゃないかと思っているんです。それはもう確信に近い。

 たとえば、ほんの1時間前まで他人だった人間が、体を重ねたとたんに打ち解けて仲良くなって、本音で語り合えるようになるってことがありうるでしょう? それって性を通して語り合ってるんです。これは圧倒的な飛躍です。この飛躍を何度も繰り返すことで人間は成長していくんです。だから、経験人数が少なければ少ないほど、人間は成長率が小さいと僕は思っていますし、それは社会学者の宮台真司さんなんかもおっしゃってますよね。

 童貞も30歳を超えると魔法が使えるようになるっていいますけど、そういう状況自体が悲劇だと思うんですよね。だけど、現実にはそういう人も今増えている。そういう時代に僕はあえて“性”ってものを描こうと思っているんです。

――ある種の成長譚としてセックスというのは必然である、と。

糸杉 そうです。もちろんね、サービスじゃないかといったら、サービスですよ(笑)。サービスになってないわけではない。だけど、セックスのためのセックス、サービスシーン的なセックスって、僕は好きじゃないんです。それは物語の根幹であり、永遠のテーマだから譲れないですし、描いていきたいと思っています。

――映画版でもそういう部分はきっちり描かれていますよね。

糸杉 (原作やテーマを)大事にしてくださったという感じがしますね。僕の中では「5分に1回おっぱいが見られる」くらいの感じでつくってくれればいいかなと思ってたんですが(笑)。「ちょっとダレてきたな」と思ったらおっぱいが出てきて目を覚ます、みたいな。でも、意外と理性的に作っていただいてた(笑)。

――もっと露出が多くてもよかったですか?(笑)

糸杉 DVD版のほうでは劇場版より肌の露出シーンが長いですね。映画のほうはぎゅっと凝縮しています。

――じゃあ、先生としてはDVD版のほうが好みでしょうか?

糸杉 いや、尺的には短いほうがタイトで見やすいですよ。長ければいいというわけではないです。テンポよくエッチというのが重要ですから。そういう意味では、(ヌードが多い)レナ役の本山なみさん“様々”ですよ。ユキテルが更衣室で着替えてるレナを覗いてるシーンとか……あそこ、良いですよね。覗いてる感がすごい出てる。生々しい。

――原作と比べて、映画版で一番変わったと思うところはどこですか?

糸杉 主に映画『うわこい2』で出てくるキャラクターになりますが、主人公の同級生のカオリが一番変わったんじゃないかと思いますね。僕のなかで、カオリってすごく知的なキャラクターなんです。性に奔放なキャラクター(=カオリ)って、知的なゲームをしているわけなので。でも、映像で見るとすごく普通のビッチに見える(笑)。服装からしてビッチだなって。カオリのイメージが変わって面白かったです。

――じゃあ、これから公開される『うわこい2』も楽しみですね。ありがとうございました!
(取材・構成/小林聖)

■糸杉柾宏(いとすぎ・まさひろ)
1975年生まれ。マンガ家。
成人向けマンガでデビューして以降、数多くの作品を手がけ、その後一般誌デビュー。代表作に『キミキス~スウィートリップス~』(秋田書店)、『あきそら』など。今回実写映画化された『うわこい』は、「ヤングキング」で好評連載中。

「セックスを通じて自我の形成を描きたい」実写化されたマンガ『うわこい』作者・糸杉柾宏が性を描く理由の画像2

■映画『うわこい』
マンガ『うわこい』を原作とした実写映画。5月31日よりシネマート六本木にて、1週間限定で独占公開中。6月21日からは『うわこい2』も上映予定となっている。6月21日より『うわこい2』が同劇場にて1週間限定公開!21日の初日にはイベントあり!
http://www.cinemart.co.jp/uwakoi/

■新刊コミック情報
『うわこい』5巻は、6月9日(月)発売!

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