【小ネタ】「放送」「放映」使い分けの基準は? 時代の変遷に伴って揺らぐ用語の境界線

1405_yougo_book.jpg現代オタク用語の基礎知識(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 5月11日、テレビ朝日が、アニメ『ドラえもん』をディズニーXDにてアメリカ向けにローカライズして放送すると発表し、話題になっている。この件は、テレビ朝日の発表前の5月8日に新聞各紙を賑わせていた。その多くは基本的に共同通信からのもので、それに準じて北から南まで各地方紙にも掲載された。

 スポーツ紙を含め各紙の掲載では「放送」となっていたが、日本経済新聞だけが「放映」となっていた。そして、5月12日のテレビ朝日のプレスリリースには「放送」と記されている。この表記の違いについて気になった人もいるかもしれない。

「放送」と「放映」の使い分けについて、2000年にNHKは視聴者からの疑問に対して「原則として『放映』は使わない」と回答している(https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/064.html)。加えて「放映」は、新聞や雑誌などの活字メディアで見られることも補足している。これに照らすと、共同通信および各紙はテレビ朝日の事前発表にそのまま合わせて「放送」とし、日本経済新聞は意識的に「放映」と言葉を変更したものと思われる。

「放送」と「放映」という言葉については、「制作」(コンテンツを作る)と「製作」(出資など、プロデュースする)ほど使い分けがなされていないように見える。しかし、アニメを含めた番組の公式サイトには「放映」という用語は出てこないので、視聴者の気づかないところで明確に境界線が引かれているのである。ネット上には活字媒体が多いため、「放映」という言葉の使用率が高い傾向にあるようだが、雑誌での毎クールごとの新番組の関係者インタビューでも「放映」の字が躍っている。視聴者の間でも「放映」という言葉が一般的になっていたりするのは、活字メディアの影響が大きそうだ。

 この言葉の用法については、メディアの成り立ちとしてテレビよりも映画のほうが先なので、「放映」の「映」は映画や映像を指していることがわかる(この件は上記のNHKの回答でも触れられている)。そしてそこからは、制作者がテレビ局に映画や映像を提供している、という姿が見えてくる。となると、「放映」という言葉は、映画や映像を「放送」してもらうという解釈になり、「放映権」という用語にも納得がいくに違いない。

 そうした「放送」と「放映」の間に、「配信」が加わって久しい。11年、テレビがデジタル放送へ移行した。ニコニコ動画と連携して「放送」後に「配信」を行うなど、両者がほぼ同期しているテレビ番組も珍しくなくなっている。ライブビューイングでも応用されているように、専用回線で映画の動画ファイルを受信するシステムを持つ映画館もある(劇をやれるほどの奥行きがない“劇場”が一般的になった)。

 このように、気になりだすとキリのない“用語”は各業界で見られる。中でも08年の、マイクロソフトによる語尾の長音付「ー」の表記基準の一部変更は、業界によっては影響が大きかった。それまでは記録媒体の容量制限などの問題もあって「コンピューター」を「コンピュータ」などと「ー」を省略することが多かった。商品のパッケージや説明書などでも、各社の対応が異なっていたのだ。

「マルチメディア」という言葉に代わって、「デジタルコンテンツ」という用語が台頭してきた。ニジマスを使用しているのに、「シャケ弁当」と呼ばれてきた。三省堂国語辞典第7版に「汚名挽回」は誤用ではないことが記された。用語の使用方法についてはうるさ型も多いが、常に慣例と実態を見比べるように心がけておいたほうがよさそうだ。
(文/真狩祐志)

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