業界への幻想をブチ壊す!? “おカネ事情”を赤裸々に明かしたマンガ3選

1402_suzukimiso.jpg鈴木みそオフィシャルブログ「ちんげ教」より。

 2013年電子書籍(Kindle)の収支――58,706部を売り上げ、10,006,057円――「行きました。1千万円!」 オフィシャルブログ(参照)でそう語ったのは、マンガ家の鈴木みそさん。綿密な取材力と構成力を武器に業界の内幕、とりわけ“ゼニ”がらみの描写に定評があるベテラン作家だ。先の数字は、鈴木氏がAmazonで販売した電子書籍の売り上げ部数と、売上からAmazonの手数料などを差し引いた“純利”を、自ら発表したものである。このエントリーはすぐさまネット上で拡散され、話題となった。

 現役マンガ家がウェブ上で細かい収支を一般公開することは珍しく、ほかにメジャーどころでは『海猿』『ブラックジャックによろしく』の佐藤秀峰さんくらい。先日のブログエントリーに対し「鈴木みそ程度でこんなに売れるのか」と失礼な意見を述べたネットユーザーもいたらしいが、ともかく鈴木さんが電子書籍化の恩恵を受けていることは間違いない。

 プロマンガ家の収入は他業種に比べて多いわけではなく、ごく一部のトップ層を除いた残り98%の人は、平均印税額は年間およそ280万円だとも言われている。また、編集部がマンガ家を経済面で冷遇するケースも多く、印税率が誰でも10%だと思ったら大間違い。記者が取材中に聞いた中では“印税率1%”という驚愕の数字もある。定価500円の単行本を5000部刷っても印税額は2万5000円(ここから税金も引かれる)――『ONE PIECE』や『進撃の巨人』の大ヒットに目を奪われがちだが、決してトータルとして見た場合は“儲かる業界”ではないのだ。

 今回はさまざまな業界の内部事情を赤裸々に描き、そんな“幻想”をブチ壊してくれそうなマンガ3作品を紹介させていただきたい。

■オタク業界はかくも厳しい
(鈴木みそ/エンターブレイン)

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 まずトップバッターは、先述した鈴木みそさんの代表作『銭』。ド直球なネーミングが示すとおり“お金によって救われる人、傷つく人”がメインテーマだ。各話のサブタイトルも「いのちの値段」「アニメの値段」「ゲーセンの値段」など“○○の値段”でほぼ統一されている。

 交通事故で魂が体から抜け出した少年(通称:チョキン)が、メガネ美女(通称:ジェニー)の魂と出会い、現実世界をさまよいながら“銭”にまつわる悲喜こもごもを見守っていくストーリーである。第1話で主人公が魂になって美女と出会うマンガは数あれど、いきなり「死んだ時の逸失利益の計算方法はライプニッツ方式と新ホフマン方式のどちらがいい?」などと色気のないセリフが飛び出してくる様子は非常にシュール。

 本作で取り上げる分野はカフェ・コンビニ・ペット・葬儀屋など多岐にわたるが、やはり一番見どころなのは作者が身をおくマンガ業界、そしてアニメ・声優周辺のオタク業界事情。たとえば、マンガ雑誌を発行してぎりぎり赤字の出ない部数は実売4万5000部。多くの月刊マンガ誌は毎月600万円ほどの赤字が出ている。それをカバーするために2万部程度の雑誌なら年間80万部の単行本を売り上げないといけない。1つのマンガ誌から出せる単行本は限られているから1冊あたり3万部が売り上げノルマ……などなど、フィクションの体裁を借りながら容赦ない数字の応酬でオタク業界のゼニ事情を描写。華やかで儲かりそうという幻想をブチ壊してくれる。

 そんなこんなで厳しい現実を見せつけつつ、各エピソードとも救いのある終わり方なのが嬉しいところ。主人公の魂は元の身体に戻れるのか? ナビゲーター役のジェニーは何者なのか? ストーリー部分の描写にも手抜きがない。全7巻、ラストまでカネと人情のバランスに優れた読み応えある一作だ。

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