公園デビューも連合赤軍もオウムもみんな同じ!? 山本直樹が描いた閉鎖された社会

――『ビリーバーズ』では「観念の暴走」や「禁忌を破る興奮」を描くために、宗教を題材にされていますが、山本先生の作品は、それ以外でも新宗教団体が出てくるものが多いですよね。

山本 でも、どれも肯定的には描いていないでしょ? 宗教を信じる人を否定するつもりもないし、ハマる人とハマらない人は紙一重だとは思います。そこが面白いんですよねえ。

――『ビリーバーズ』の最後で、宗教団体を抜けだした「オペレーター」が壊れてしまいますよね? あれも、そういった紙一重の部分を描こうとしたんですか?

山本 「向こう岸まで」という言葉を最後に書いたので、「日常と違う世界に行く」という読み方をされるんですが、これは「次の現実へ」みたいな意味で書いているんです。

 日常って、わりと飛び飛びなんですよ。野球のルールで言うと、塁上に留まっているうちは、アウトにならないから安全でしょう。でも、次のベースまで行くにはリード取るなり進塁するなり、アウトになるリスクを冒さなきゃならない。それと同じで、日常はそこに留まっていつまでも安穏としていられるものじゃない。どこかに分岐点が必要だし、飛び石みたいに飛び移らないと進めないんです。日常から次の段階の日常に飛び移るには、それぞれ飛躍が必要で、みんな普段やっていることでもある。けれど、その日常を踏み外すと、引き篭もりになっちゃったり、借金に追われたり、変な宗教にはまってしまったり。だから僕は、最後に「安穏とした日常が続くと思うなよ、それが日常なんだぞ」ということが描きたかったんだけど、あんまり伝わらなかったんですよね(笑)。(後編に続く)
(構成/大熊 信)

■山本直樹(やまもと・なおき
1960年、北海道生まれ。早稲田大学教育学部を卒業後、小池一夫の「劇画村塾」に入塾。主に青年マンガを中心に執筆している。作中の性描写が問題となり、東京都から不健全図書指定を受けた『BLUE』をはじめ、奥田瑛二主演で映画化された『ありがとう』など、今回取り上げた作品以外にも代表作多数。

■註
【註1】小池一夫劇画村塾

『子連れ狼』『御用牙』(共に小池書院)の原作者として知られる小池一夫が、1977年に開講されたマンガ家やマンガ原作者、映画原作者の養成塾。現在はWEB講座として開講している。
【註2】平井和正
『8マン』(マンガショップ、作画/桑田次郎)や『幻魔大戦』(作画/石ノ森章太郎)の原作者としても知られるSF作家。小説作品には『ウルフガイ』(角川春樹事務所)シリーズなど。
【註3】統一教会の合同結婚式
正式名は「国際合同祝福結婚式」。世界基督教統一神霊協会(統一教会)の宗教行事のひとつ。教団に属する未婚の男女が、文鮮明(創立者・12年9月死去)に写真を送り、「マッチング」をしてもらった後、本部から「相対者(婚約者のこと)」となった相手が知らされ、「約婚式」に至る。
【註4】ミソジニー
女性や女らしさに対する蔑視や偏見、憎しみを指す。女性嫌悪ともいう。

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