あの時オーバーフローに一体何が!?ぬまきち氏が振り返る

『School Days』メイザーズぬまきち(オーバーフロー)インタビュー「会社が宗教団体に乗っ取られかけたことも」

 大ヒット、一時は美少女ゲームブランドの頂点に駆け上ったオーバーフローが、アダルトゲーム制作から撤退したことは記憶に新しい。根強いファンがたくさんいるブランドだけに、復活を望む声も多い。その当時、一体何があったのか? 過去の記事を振り返ってみたい。

 R-18ゲーム(有り体にいえば、エロゲー)ブランド・オーバーフローは、常に世間を騒がせる存在だ。フルアニメで描かれる代表作『School Days』では、主人公が殺されたりヒロインが自殺したりの衝撃的な展開で世間を騒がせた(さらに、テレビアニメ版は最終回直前に発生した猟奇殺人(京田辺警察官殺害事件)のせいで放送中止に)。

 さらに、『Summer Days』では、2.3GBの大容量修正パッチを配布することになって「話題」となった。そんなオーバーフローが、4月末に発売された『SHINY DAYS』で「ブランド最終作」を迎えた。

 西園寺世界(編注:Daysシリーズの主要ヒロインの1人)を愛してやまない筆者(特にアニメ版の「デキたから責任取れ」展開)としても、オーバーフローに聞きたくても、聞けないことは山のようにある。この際だから、すべてを教えていただこうと、代表のメイザーズぬまきち氏にアポイントメントを取った。

──今回がブランドの「最終作」となりましたが、終了を決めた理由はなんでしょうか?

メイザーズぬまきち氏(以下、ぬ):有り体にいえば、売れないから次は作れない(笑)。もちろん売れないとはいっても、平均的なR-18ゲームよりは売れていますが、アニメのゲームなので一般的な作品よりもコストがかかるんです。それだけに、ぼちぼちしんどいなと思ったんです。もともと、デイズシリーズは、アニメを作りたいからやるのであって、普通にエロゲ-を作って得られるような利益を得られるとは思っていなかったので。自分の健康面的なところでも、寝食忘れて床に寝て、みたいなのができる年でもないなと。『SHINY DAYS』の最中にも『Cross Days』の最中にも倒れてますし。

 それに、世間話では同業他社のどこがいくつ(売上枚数)とか聞いてるし、ソフ倫(コンピュータソフトウェア倫理機構)からは月別の全体出荷数も出してくれるので、前年比で平均どのくらい落ちるのかわかる。ソフ倫のメーカーアンケートを見ていても、昨今は「どこからお金借りてますか?」なんて項目がありますからね。そういうご時世なのだと思います。

──会社の事業(注:オーバーフローを運営する有限会社スタックは、R-18ゲーム以外のデジタルコンテンツ制作も受託している)の中で、儲かるものではなかったということですか?

:そうですね。今回あらためて帳簿から何から洗い直してみて、フルアニメのゲームなんてホントにやるもんじゃないなと思いましたよ。主要なスタッフはサポートのために残してはいますけど、動画ゲームをフルで常時回転させていくスタッフのほうは解放しました。もともと、席だけあってほかの仕事もしているという人も多くて、状況は何度も話していたので納得して辞めてもらいました。

──今回、流通会社がホビボックスからアールエスケイに変更されていますが、これは売り上げが見込めないからということですか? あるいは、資金の都合とか?

:向こうの要求と、条件が合わなくなったことがひとつ。あと、話し合いをしていた昨年の10月頃、ちょうどホビボックスでは個人情報が流出する事件があって、そのバタバタで十分な交渉ができなかったのも大きかったと思いますね。といっても、血みどろのケンケンガクガクで揉めたわけではなく、ドライに「条件が合わないので、今回はほかのところで」といった程度です。

──さほど揉めなかった理由は?

:ほかのところと比べて、あまり借り入れがなかったからじゃないかと。大きな規模で借り入れてやると、揉めることが多いと聞きますが。

──経営面でいえば、今後ゲーム部門については、どういう方針を考えているのでしょうか?

:あまり考えていないのですが、今の状況でオーバーフローを盛り立ててというのは自分の体力的にはしんどいかな、と考えています。どういう枠組みでやるかは別として、今の路線で何かやることはありません。やりたいという気持ちはあったラディッシュシリーズの次作を作るみたいな、肩の力の抜けた小さなのはいいかもしれません。それに、『SHINY DAYS』がもう少し売れたら、要望の多い「言葉ファンディスク」は制作するかもしれません。これは、キャラデザイン・総作監のごとうじゅんじさんも、ものすごくやりたがっていますから。ただ、それらもあくまで終息のためのけじめで、次への飛躍ではないかと。

──一旦、ゲームからは離れることになるのですか?

:どうかな。よその手伝いの話ももらったりはしてますし、別にアニメゲームが作れないだけで自分が破綻するわけではないので、何かに携わるというのはあるかと思います。

──今後も、ゲーム制作に携わっていくということですか?

 自分が前面に出て何かやるということはありませんけどね。オーバーフローは、なんだかんだいっても「メイザーズぬまきち」が看板になっているのですが、これも意図したところではないので。

──さまざまなところで、ブランドの顔として登場していらっしゃいますが。

:最初、雑誌以外で表に出たのは『MISS EACH OTHER』(2004年発売)の時ですね。これも、意図したものではなかったんです。当初は、主演の2人組の声優の女のコの声優が表に出て宣伝していたんですが、それが広めの会場でのイベントの時に、直前になって「出たくない」と言い出して……。開場間近のところだったのでギリギリまで説得したんですけど、どうにもならないので、しょうがなくほぼ全部の時間をぶっつけで自分がゲームの紹介とかトークを。それで、人に任せることの怖さを知って、自分が控えてバックアップできるようにしなきゃダメだと思ったんです。開き直ってというよりも、人任せにしておくのが怖くて。

──表に出たことの効果は?

:お客さんとの出会いというところでは効果はありましたね。トークで語っていること自体はウェブでもなんでもできると思うのですが、それをお客さんの目を見てお客さんの質問を受けて、その触れ合えるところに価値があるんだろうなと。それに、昨今は違うかもしれませんが、直接会って話をした人はわかってくれるので。

──実際、最終作だと公表しようと思ったのはいつ頃から?

:先ほどもお話ししたように年明けのあたりで、倒産する云々ではなく、フルアニメゲームを制作していくだけの体力が会社には残っていないのは明らかでした。そこで起こったのが「AKB48事件」だったんです。

──それはいったいどういうことでしょうか?

:1月にAKB48のメンバーが、合コンや彼氏との旅行が原因で活動を辞退する事件があったじゃないですか。ウチで音響とかキャスティングをお願いしていたところが、そちらの仕事にも関わっていたんです。それで、そちらに時間を取られてしまい、土壇場でフタを開けたら「一人の声優が、6月までスケジュール取れません」と。

 実際のところ、音響マンのほうの連絡の不備なのか声優事務所が悪いのか、どこまでAKB48の影響があったのかはわかりませんが、たった一人の3時間分の音声が足りないので、どうにもならない状態になり、期日未定の発売延期に突入しました。ギリギリまでケンケンガクガク交渉を続けて、結局別の音響制作会社にお願いして4月には録れたんですが。それで発売を延期することになり、また運転資金の借り入れを考えなくてはならなくなりました。それで、借り入れはできるが、そこから先のスキームを考えると『SHINY DAYS』が普通に売れたとしても、しんどいなと思ったんです。それで、普段からスタッフにも話しているので、ファンにも開けっぴろげに言ってみたわけです。

──いきなり、「オーバーフローが倒産」ということになりましたね。

:『MISS EACH OTHER』の頃と違い、アフィまとめブログ的なところを通じて、悪意の拡散がされやすい流れがあったわけです。これは、受け手のリテラシーの問題も絡んでくると思うんですけどね。

──実際、最終作と謳ったほうが売り上げには効果があると考えましたか?

:それはありません。むしろ、最終作だと付くこと自体がマイナスだという話を聞きました。なぜなら、サポートがないと思われるから。過去の例としてサポートを行わないものもあったようなので、それを引き合いに出して、そうに違いないと。

──そもそも、R-18ゲームにサポートは必要なんですか?

:サポートの頻度は、バグの程度や数とほぼ正比例します。『Cross Days』の時にもバグだのなんだのとネットに書かれましたが、会社のユーザーサポートの電話はほとんど鳴ることはありませんでした。たまに、アクティベーションの仕方を聞くくらい。もちろん、いくつかバグはあったのでパッチは配布しましたけど。そちらに対する問い合わせは、まったくと言っていいほどありませんでした。

──パッチといえば、避けて通れないのが『Summer Days』のことですが。

 あの時は、正真正銘のバグですから、ガンガン電話が鳴りましたよ。言い逃れすることもせず詫びました。あれは、お客さんに対してウチが100%悪いものなので、謝るしかない。どういうバグだとどのくらい問い合わせがあるかという比較で、『Summer Days』と『Cross Days』はとても対照的でした。

『School Days』メイザーズぬまきち(オーバーフロー)インタビュー「会社が宗教団体に乗っ取られかけたことも」の画像4発売当初はバグが多かった『Summer Days

──そもそも、あのような事態が起こった理由を、そろそろお話しいただけませんか?

:『School Days』を終えて『Summer Days』の制作に入っていたときに『School Days』のメインプログラマーで、一緒に創業したメンバーが結婚したのもあり、不規則なゲーム稼業に音を上げて会社を辞めたんです。その頃、もう一人の創業メンバーも、折悪しく先天性の病気が悪化して動けなくなったんです。そうなると、経営者としての自分の下にいてメインで動くのが、サブでやっていたプログラマーとグラフィッカーの2人だけになってしまった。この2人は双子の兄弟だったんですが、三代続く某巨大宗教団体の熱心な信者だったんです。それで、結果的に『Summer Days』が終わるくらいまで、会社が某巨大宗教団体に支配されるような状況になってしまったんです。

──どんな感じで支配を?

:スタッフが扇動されて意に沿わないと動かないみたいなのはよくある話として、もっとも露骨なのは、選挙の時に「この政党に、この候補者に投票しろ」といったもの。自分が経営者なのに、何かやろうとしても何もできない状態にまで陥っていましたから、どうにもならない。

──そりゃ、プログラマーやグラフィッカーが主導権を握ってたら、舵取りなんて無理ですね……。経営まで支配されてしまったわけではないのですか?

 その直前まで。そこまでいかなかったのは『Summer Days』の大バグがあったからなんです。その原因というのが、双子のプログラマーのほうが某巨大宗教団体の青年部の書記になったとかで、そっちのほうの仕事が忙しくなってしまって。会社には、ずっと「できてます」と言い続けてたんです。で、プログラムもグラフィックも彼らが仕切っていたので、手出しできなかったのですが、出してみたらあんなことに……。

──なるほど。結果、向こうも黒星をつけたから退社せざるを得ないということになったわけですから、『Summer Days』はある意味救世主では?

:どうかな~って、感じですね。会社の被害以上に、お客さんへのダメージを未然に防ぐことができなかった責任は感じてます。あと、このことを当時、大手エロゲー雑誌が取材に来て「読者は真実を求めているんです!」というので、全部話したら、掲載されませんでした。「日刊サイゾー」さんはいかがですか?(注:筆者もぬまきち氏も、玄関に猫の死体とか置かれるとイヤなので宗教団体名は書きません、お察しください)

──その後は某巨大宗教団体からは、何もありませんか?

:いえ、2ちゃんねるで、彼らの手によると思わしきバッシングがありましたよ。もう見てないのでわかりませんが、今もずっと書き込み続けてるでしょう。サポートに電話が鳴らないときでもネットで「バグが! バグが!」っていう扇動があるのは、こういう経緯だからですしね。彼らが知らないような、名前を出さずに外注でやった仕事なんかでは、同じようなプログラムの仕事でも何も書かれないので、中を見てどうこうと判断してるわけではないのでしょう。逆に言えば、オーバーフローと名が付けば、なんでも難癖つけたいのだろうなと感じます。

 『Cross Days』では、広報の女の子がミスをしてボツルートの画像を雑誌に掲載したことがあって、それはそれで怒りはしましたが、開発中の画像と断っていることだし「まあいいか」と放っといたら、何やらその種の人たちがそれらのボツルートをあげつらって、「未完成、未完成」と騒ぎ立てたそうです。で、見るなと言ったのに彼女は気にして2ちゃんねるを見ていたらしく、どんどん心を病んでいって、休みがちになり、ある日突然雑誌に載せちゃったボツルートだけじゃなく、他のボツ素材も含めて一切をどこかに廃棄してそのまま失踪しちゃうという結末に。そのときはさすがに怖いと思いました。囃し立てた人たちは、宗教に扇動されてる自覚はないでしょうしね。

──2ちゃんねるに関しては、ソフ倫からもいろいろとクレームめいたことがあったとか?

:ソフ倫の人たちは、2ちゃんねらーが多くて。何かしら、2ちゃんねるに書かれていることがあると「これは真実か?」と呼びつけたり電話かけてきたりするんですよ。電話口で2ちゃんねるのログを読み上げられるのはイヤですよね。と言っても、向こうもわかってるので「そんなわけないでしょ」「ですよね」で終わるんですが、律儀に毎回確認だけは来るので。

──具体的に、どんなことを詰められるんですか?

:もう、ことあるごとにすべてですよ。東京大学で講演をした後にも、呼び出されましたよ。参加者がネットにアップしたレポを持ってきて、ひとつひとつ読み上げて「これは、事実か」と。要は、ソフ倫の批判をしていないかの確認なんですけど、そんなの聞くくらいなら来てほしかったかな(笑)。

──そんなにソフ倫と険悪な関係とは知りませんでした。

:いや、別に険悪じゃないですよ。今回も『SHINY DAYS』の申請を出しに行ったら「ようやく出るんですね、お疲れ様です」と温かくねぎらってくれました。ささいなことでも何かあると双方連絡を密に取り合って、むしろ親密といえるような気がします。

──今回が最終作ですが、やり残したものはありませんか?

:ラディッシュシリーズの新作とか。それに、『School Days2』はプロットもありますから、それはやりたかったなと。

──『School Days2』は、どのような内容なのですか?

:2009年のエイプリルフールネタにしましたが、言葉の息子・言成が登場して、世界の娘を連れてアフリカから帰ってきた刹那と出会うというものです。バックボーンでは言葉が誠を殺した犯人を追い続けているという愛憎を描きつつ、主人公の言成のほうは普通にラブストーリーもありの展開で考えていました。

──今後、ゲーム業界とまったく手を切るわけではないのですね。

:もし何かやるなら、昔やっていたようなテンプレ的な作品もやってみたいなと思っています。オーバーフローを創立する前には、コンシューマーのディレクターとして『同級生2』や『Piaキャロットへようこそ!!2』にも関わっていたのですが、ヒット作の移植と追加ですから、テンプレ化された後のユーザーのイメージは意識して作っています。なので、そうじゃないものを作ろうと思って第一弾が妊婦ゲーになったり、オーバーフローではテンプレから外れるものをどんどん作ってきたのですが。自分の看板じゃないときには、おさらいの意味でも、そうじゃないテンプレ的なものを作ればよいかと考えています。

 * * *

 今回の取材は、主に経営面を中心に行ったが、各作品の世界観がつながっていて登場人物が血縁関係にあるなど、オーバーフローの作品は黒くて奥が深い。そのたぐいまれなる作品世界が、ここで打ち止めになるということはないだろう。やはりブランド「最終作」は、新たなる出発ということ。

 俺たちの船出はいつも「Nice boat.」だ。

(聞き手=昼間たかし/神保町「さぼうる」にて 2012.05.25日刊サイゾー既出)

School Days Blu-ray BOX (ブルーレイディスク)

School Days Blu-ray BOX (ブルーレイディスク)

アニメ版の出来も満点!激鬱注意!!

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