公園デビューも連合赤軍もオウムもみんな同じ!? 山本直樹が描いた閉鎖された社会

――例えば、『ありがとう』では「ニコニコ人生センター」という、その後の『ビリーバーズ』の設定でも使われる宗教団体が登場します。『ありがとう』の開始がオウム事件直前の1994年末でしたが、新宗教をマンガのネタとして扱うのがかなり早かったですよね。

山本 オウム自体は、サリンを撒く前から『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)に出たりとか、世間的にも十分騒ぎになってました。それ以前に、80年代に僕が小池一夫劇画村塾【註1】に通っていたころに新宗教ブームがあって、周りに超自然的なものやニューエイジ的なものが好きな人がいっぱいいたんですよね。マンガを書く人には、そういう人が多いんです。主に(『幻魔大戦』(秋田書店)の)平井和正【註2】経由で(笑)。あとは、当時、統一教会の合同結婚式【註3】なんかも大きなニュースになりましたよね。その辺の影響を受けています。「相変わらず胡散臭い人が多いなあ」とか、「なんであんなのにハマっちゃうのかなあ」という視点で見てましたけどね。

――当時オウム真理教の中にいたのは、山本先生とほぼ同年代の人たちですよね? 彼らの多くが、『宇宙戦艦ヤマト』などをはじめとした、サブカルチャーからの影響を受けていると言われていますが、山本先生はそういったSFアニメにハマったりはしなかったんですか?

山本 僕の同級生もみんな『ヤマト』でキャッキャ言っていたのに、僕はそれに乗れなくて、「けっ」なんて言いながらうらやましそうに見ていましたね。どちらかというとマンガよりも音楽のほうが好きで、少ないお小遣いの中で、マンガ雑誌よりも音楽雑誌を選ぶような子どもでしたから。僕はマンガ家だけど、実はオタクじゃないのかもしれないね。ただ、SFアニメは全然見ていなかったけれど、筒井康隆とかのSF小説は大好きでしたね。

――実際同年代の人たちが、あの地下鉄サリン事件を起こしたと知った時はどう感じましたか?

山本 「これはすごいなあ」と思いましたね。カルト的なものはそれ以前からたくさん跋扈していたけれど、「これじゃあフィクションはなかなか勝てないなあ」なんて思いながら見ていましたね。ただ、一歩間違えれば自分もこうなっていたかも、とは考えなかった。やっぱりそこは、宗教に対する免疫があったからだと思います。

――当時あるインタビューで、オウム事件を受けて「閉鎖された環境で観念だけが暴走する」というお話をされていました。その後の99年に連載開始されたのが『ビリーバーズ』でしたが、やはりそういったテーマで描かれたのでしょうか?

山本 そうですね。宗教に限らず、教室のいじめだって、ママさんの公園デビューだって、相撲部屋のかわいがりだって閉鎖された社会。もちろん、連合赤軍もそう。

――『ビリーバーズ』で興味深いのは、女性である「副議長」の信仰心と性欲が矛盾していないように見えるところです。「副議長」のほうが性欲に忠実で、男性である「オペレーター」は、最後までセックスをすることにビビっていました。

山本 そうですね。それはいいことじゃないかな(笑)。男は女に対して、実はあまり性欲を出してほしくないっていう願望がありますよね? いわゆる“処女厨”っていうやつ。僕に言わせたら、それはミソジニー【註4】だと思うんだけど。

――宮台真司さんとの「東京都青少年健全育成条例改正案」に関する対談の中で、宮台さんが山本先生の作品にでてくる女性を「聖なる娼婦」と評していましたが、山本先生の作品に出てくる女性は、みんなパートナー以外と性行為をしますよね。

山本 それが興奮するんじゃないですか(笑)。禁止されたものを破るのは楽しいでしょう? 『ビリーバーズ』も、無人島という密室で、禁忌を破るセックスを描いたら気持ちよさそうだと思ったんです。“何がより興奮するか”を考えた時に、より自分が興奮するものを描いてみただけなんですよ。この作品に限らずですが、僕は、自分が一番まっとうだと思っているものを描いているし、まっとうじゃないものでも、まっとうじゃないと意識して描いています。だから、あまり深いことを考えて描いているわけじゃないんですよね。

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