■最後までとても心地よかった『月がきれい』
『月がきれい』は最後まで非常に心地良いアニメだった。タイトルどおり「きれい」な作品と言い換えることもできるだろう。
中学生たちの群像の部分はCパートに割り振り、本編は主人公2人に焦点を絞りきったのが勝因の一つ。1年を12話で語るという駆け足感もほとんどなく、過不足なくじっくり描くことができた。説明セリフに頼らず、それでも説明不足に陥ることなく、ドラマを作ることができたのも2人に絞ったからだ。
小太郎と茜がとても素直で屈託のない(特に小太郎は意外なほど屈託がなかった)少年少女だったことも、2人の恋模様をほのぼのと(たまに唸りながら)見守ることができた要因だと思う。また、周囲にも悪意を持った人間がまったく登場しなかったことで、視聴していてもネガティブな感情に陥ることなく、さわやかな印象を最後までキープできた。現在放送されている朝のNHK連続テレビ小説『ひよっこ』とも似た感覚だった。
作画に関しては一部で若干残念な部分があったにせよ、なんとか破綻することなく乗り切った。特に最終回はかなり盛り返していたと思う。プレスコ(声優の芝居を先に録音する手法)も功を奏し、吐息や短い言葉を中心に非常に細かな芝居が組み立てられていた。背景の美しさ、精緻さは昨今のアニメ随一だったのではないだろうか。
■『月がきれい』はアニメならではの作品
『月がきれい』は良いアニメであり、良いドラマだった。良いアニメは多いけど、同時に良いドラマであることはなかなか難しい。そして、『月がきれい』はアニメならではの企画であり、アニメじゃないと成立しなかった企画だったと思う。
川越はとても良い街だけど、普通に実写で撮ったってあんなにきれいには映らない。新河岸川の桜並木に始まり、蔵造りの街並み、菓子屋横丁、川越氷川神社の「縁結び風鈴」、川越まつり……。いずれもリアルなだけではなく、アニメならではの美しさに彩られていた。
また、筆者はテレビドラマや実写映画もチェックしているが、「地方都市を舞台に、中学生男女の恋愛を丹念に描く」なんて企画は見たことがない。テレビドラマで恋愛ものならOLさんが主人公だし、実写映画なら高校生ぐらいのハイティーンが主役のものが多い。演じる役者の年齢層やマーケティングのデータなどから、こういう結果が生まれるのだろう。
以前、『月がきれい』の企画を発案したフライングドッグの南健プロデューサーにインタビューした際、「アニメで『中学生日記』をやる」とコンセプトを明かしてもらったが、そもそも現在では『中学生日記』のような実写ドラマはもう見ることがない(2012年に終了している)。
でも、アニメなら『月がきれい』のような企画も通すことができるし、多くの人のハートを掴むことだってできる。同じような作品が多いと嘆かれがちな最近のアニメだけど、まだまだこうやってチャレンジができる。だから、この作品にはすごく風通しの良さを感じた。魔法もメカも幼女もハーレムも無敵の主人公も登場しなかったけど、これからのアニメの可能性を感じさせた最高のアニメだったと思う。
(文/大山くまお)
『月がきれい』12話 驚きの最終回。アニメならでは描き切った中学生のリアル、この作品こそが「きれい」のページです。おたぽるは、アニメ、作品レビュー、千葉翔也、岸誠二、月がきれい、17年4月期アニメ、フライングドッグ、南健、大山くまお、夏目漱石、太宰治、宮沢賢治、小原好美、川越の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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