『キャラ屋さんの遅い青春』(高上優里子) カープファンは暴れないし、ヤクザも抗争してない広島 

 高上優里子『キャラ屋さんの遅い青春』(KADOKAWA)。まず書店で手に取った理由は、表紙に描かれたヒロインの美しさ。そして、オビのキャッチである。

きみに遅い初恋をする──。
制服時代のドキドキ、それは忘れていた青春の追体験……。

 これ、作品の紹介というより青春が暗かった編集者の心の叫びに見えてしまうのだけど、いかがだろうか。

 でも、この作品。そんな叫びと悶絶を生み出すのも当然の、激烈に爽やかな、遅れてきた青春が描かれるのだ。

 作品として尖っているポイントの第一は、物語を作者である高上氏の故郷でもある広島に設定していること。ここに描かれる広島は、普段、広島人以外がイメージする広島とは、まったく異なる爽やかな広島である。

 日本の戦争責任を叫ぶ人々は出てこないし、ヤクザは抗争していないし、カープが負けて暴れる群衆もいない。ああ、よくよく読むと、具体的な地名は横川程度で、流川(注:広島の歓楽街)なんて絶対に出てこない。極めつけは、みんな標準語である。まあ、今どき日本のどこにいっても、絵に描いたような方言を話す人なんていないわけで、当然といえば当然か。

 そう、本編の前提として讃えたいのは、出身者によって、こうして今までになかった新たな広島像が描かれていることにある。なんというか、同じ広島県でも、広島市=危険、尾道市=青春みたいな要素があったわけだけど、尾道市的な青春要素を、すべて広島に置き換えているのが、この作品なのである。

 そんな、見たこともない広島で、作品の舞台となるのは、ゆるキャラのプロモーションをしている会社。そこで、ずっとキャラクターデザイナーをしてきた伽羅谷は30代の男。そんな男の職場に、会社創立50周年のゆるキャラをデザインした15歳の女学生・清瀬歩がやってきた。

 この2人が、ものづくりを一緒にしながら距離を縮めていくのが、この物語。いやいや、いろいろとツッコミどころは満載である。いくらなんでも30代と15歳とか、通報したほうが、ええじゃろう……。でも、ページをめくるごとに、このファンタジーの世界に俺も入り込みたいと願ってしまう。そんな繊細な描き方がされているのである。

 何せ、キャラデザに人生を注いできた男と、物心ついたときからキャラを愛し続けてきた少女。年齢差はあっても、シンクロしないほうがオカシイだろう。もう年齢という壁など、2人の間ではどうでもいいのだ。現状なら年齢差は事案発生だけど、10年経ったら、単なる年の差カップルに過ぎないだろう。

 とにかく性的に目覚めてがいないがゆえに、無防備な少女の魅力が全開なので悶絶する読者も多いのではなかろうか。

 今後の2人の距離感の変化が気になる作品である。
(文=是枝了以)

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