野々村朔『おとなりコンプレックス』女装男子とイケメン女子の心に刺さる恋愛 

 これは女装男子ジャンルの新たな展開か。

 野々村朔『おとなりコンプレックス』(リブレ出版)を読んで、そんな感想を抱いた。女子のためのエロスを提供する出版社として知られるリブレであるが、この作品は全年齢向けの一般作。そして、スタイリッシュな表紙のイメージとは裏腹に、意外にも物語はディープでドロドロに重いのである。

 物語の主人公は幼なじみの男女2人。片方のあきらは、イケメン過ぎる女子。かたや、真琴は女装が板につきまくっている可愛すぎる男子なのである。家は隣同士で同い年。

 可愛い格好がまったく似合わないあきらのかわりに、子どもの時から、あきらの家族の着せ替え人形になってきた真琴は、いつしか女装が当たり前の男子になっていたのです。

 自分の娘よりも、隣の男の子のほうにキャキャウフフして着飾らせてしまう家族。この設定でドタバタコメディにすることも可能でしょうが、物語はそんな軽いものにはなりません。女子なのにイケメン過ぎるがゆえに、傷つくことを繰り返してきたあきらと、彼女の気持ちに寄り添ってきた真琴の関係性を物語は、じっくりと描いていくのです。

 姿はお互いに性別逆転ではありますが、心の繋がりは家族以上。ならばもう付き合ってしまえばいいハズなんですが、2人はあくまで幼なじみでしかないのです。

 そんな関係を続けてきた2人ですが、大学生になったいま、いろいろと人生の転機が訪れます。イケメン過ぎる女子であるあきらをデートに誘う男が現れ、真琴のことがずっと好きで、そのために綺麗になったという中学の時の同級生が現れます(物語の中で描かれますが、ちゃんと登校時は男装です)。

 そんな人物の登場で、お互いに意識せざるを得ない状況になっていく、あきらと真琴の物語。とりわけ2人の関係性が色濃く描かれるのは、真琴が前述の中学の同級生と、男の姿で出会うシーン。ここで、真琴は「俺に女装趣味があったらどう思う?」と問いかけるのです。当然、聞かれた相手は「冗談だよね?」と戸惑いの言葉を。そこで、真琴は「俺の好きなやつはさ……どんな格好をしていたって真琴は真琴だよ……っていうんだよ」と啖呵を切るのです。

 なんだよもう、そこまでいうなら、さっさと付き合っちゃえよ!

 これまで、一般作から18禁までさまざまな女装男子が登場する作品を読んできたわけですが、このシーンに雷が落ちたかのような衝撃を覚え、食い入るように最後まで読み切ってしまいました。

 この物語が魅力的なのは、あきらと真琴の2人が互いに自分をもっとも理解してくれる相手だと気づきながらも、そこに甘えていないこと。その自立した心はカッコイイものだけれど、ゆえに2人は幸せを掴み取ることができていないのです。

 もう少し互いに甘えたいと思った時に、2人の距離は、ぐっと縮まるのでしょう。とにもかくにも、読者が応援したくなる新たなスタイルのカップルだなと思った。発売から即重版がかかっているのにも納得です。
(文=ピーラー・ホラ)

野々村朔『おとなりコンプレックス』女装男子とイケメン女子の心に刺さる恋愛 のページです。おたぽるは、漫画マンガ&ラノベ作品レビューの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!