アイドルの処方箋 第3回

「AKB48じゃんけん大会」田名部生来の優勝に見る“競わされるアイドルたち”の「矛盾した胸の内」

——地下アイドル“海”を潜行する、姫乃たまがつづる……アイドル界を取り巻くココロのお話。

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 トークショーの終盤、他愛のない質疑応答の時間に、「ギャンブルはしないんですか?」という質問が寄せられた。

 ファンの人が些細なことでも、いいやと思わないで質問してくれることに嬉しさを感じながら、「ただでさえギャンブルみたいな職業なので、しないです」という言葉が口を衝いて出ていた。笑い混じりのその声が、マイクを通じてスピーカーから流れてくるのを聞いて、私は胸の中で「本当にそうだな」と改めて納得してしまった。

 女の子たちが、「いのち短し 恋せよ乙女」とも歌われる短い若き時代を、恋愛禁止を掲げて、アイドルという職業に費やす行為はギャンブルに変わりない。興味のない人には遊んでいるように見えるかもしれないが、当たるかわからないアイドル業に青春を賭しているのだから、彼女たちにとっては戦いである。もちろん遊びでやっている子も大勢いる。同じようにパチンコや競馬も、遊びでやっている人もいれば、戦うように本気でやっている人もいるのだろうと思う。

 ライターの仕事を始めて、最初に担当してくれた編集さんはスロットと麻雀が大好きだった。「僕は本当にギャンブルが好きだから、別に千円賭けてじゃんけんするとか、そんなことでも良いんですよ」と言っていたのを覚えている。17歳だった私はたしかに少し面白そうだと思ったが、まさか23歳になっても自分がギャンブルみたいな仕事をしているとは思わなかった。

 先日の「AKB48じゃんけん大会2016」で、田名部生来さんという23歳のメンバーが優勝したことを知った。人気や知名度に関係なく、じゃんけんで大所帯のセンターになれる可能性があるなんて痛快だし、アイドルにぴったりでわくわくする。彼女が「3期生の苦労人」や「干されメン」などと呼ばれて苦労しながら、今年でデビュー10年目を迎えていると聞いて、私まで愉しい気持ちになった。当日の会場では、同期の渡辺麻友さんや柏木由紀さんが、自分のこと以上に嬉しいと号泣する場面もあったという。彼女の優勝コメントが「私みたいな変な女がセンターで申し訳ない」だったことにも胸を締め付けられた。

 アイドルを志していた少女が、こんな謙虚なコメントをするようになるまでどんなことがあったのだろう。

 一体どんな思いで、何をモチベーションに、アイドルとして10年間を過ごしてきたのだろう。

 AKB48の総選挙では圏外だとしても、私みたいな地下アイドルとは比べものにならないくらい仕事は大きくて華やかだと思う。しかし常に大勢の女の子達と比較され続けるのは、これまた想像も付かない辛さだろう。

 私たちアイドルの競争はいつもへんてこだ。

 ゴールがどこにあるのか、何をしたら得点が増えるのかわからない競技場で、それぞれがまったく違う競技をしながら、めいめいに争っているせいだ。技術があっても、順位が高い子の真似をしても、勝てるわけではないのが、アイドル業の面白さであり難しさでもある。

 AKB48の総選挙も、別に歌やダンスやルックスで順位が付けられているわけではない。人間力や、芯の強い気持ちや、親近感を覚えるような適度な隙も必要だろうし、事務所の力や運も実力のうちになる。ひとりのメンバーに対して大量に票を入れることについては度々議論になるけど、それだけ誰かを夢中にさせるのもアイドルとしての力に違いない。

■競争型アイドルイベントの功罪  

 2014年の「じゃんけん大会」へは取材に行った。 「じゃんけん大会」は衣装が統一されておらず、メンバー本人が自己プロデュースできるようになっている。同じ衣装を着て一斉に歌って踊っているライブの時とは、まったく異なる印象を受けた。自由になったメンバーは、男性受けからかけ離れた衣装(優勝した田名部さんも、ネクタイを頭に巻いた酔いどれサラリーマンの格好をしていた)や、反対に可愛いアイテムを追加しすぎてごちゃっとした雰囲気になっている子もいた。女の子達が自分の思うように戦う姿は、今まで自分が見てきた地下アイドル達と酷似していて驚いた。

 地下アイドルもまた、よく競わされる。投票制のライブや、番組の企画や、公開オーディションなんかで。集客やグッズの売上で順位を付ける企画はお金が動く上に、地下アイドル達が勝つためにインターネットでファンに呼びかけるので、イベントや番組側にとってはお金のかからない宣伝にもなる。きちんとした企画もあれば、そういうことを主な目的としたイベントも多い。

 それでも、少しでも知名度が上がれば、何かに繋がればと思う地下アイドルは後を絶たない。

 かくいう私も、活動を始めた当初は3つの投票制ライブに出演していた。どれも集客や売上とは関係なく純粋な投票イベントだったので、地下アイドル同士も穏やかな雰囲気だったけれど、勝てない時は悲しかったし、ずっと勝てない人としてポジションを築いて人気になっていく子もいて非常に勉強になった。人それぞれ自分に合った戦い方があるのだ。歌や踊りよりもずっと、ファンの人の目をみることや、声援に応えることが大事なこともわかった。いまでも最初に経験しておいて良かったと思っている。

 競争型のイベントにはいろんな女の子がいる。1位になれないことに心折れて脱落してしまう子もいれば、あらゆるイベントに出場しては勝ち続けている子もいる。しかし、前者の子がほかの場所で高く評価されることもあれば、後者の子は努力する目標が常に目の前にないと不安なので小さなイベントに延々出続けているだけということもある。何をしたらほかの子たちから頭ひとつ抜けられるのかわからない世界にいるのだから、気持ちは痛いほどわかる。私たちはこうして、このへんてこな世界で戦っている。

 そもそもアイドル界には頂点というものがない。

 ナンバーワンではなくオンリーワンを認めるアイドル文化は、いまのアイドルたちが受けてきたゆとり教育に似ている。オンリーワンは嬉しいけれど、誰だって自分と同じ人間はいないのだからそれは当たり前のことで、この世界に入ったからには少しでも存在を認められたいし、時には順位付けされて自分の立場に良くも悪くも納得したい欲が生まれる。こうした矛盾の中でアイドルが爆発しないように、AKB48の総選挙も、地下アイドルの投票イベントも需要が絶えない。ファンにとっても自分の応援の仕方が合っているのか、自分の応援は報われているのか目に見える貴重な機会だ。  

 私はいま積極的な戦いの時期を経て、なるべくほかの地下アイドルと競わなくていい隙間産業を常に探している。それなので誰とも競っていないのだけれど、自分の性格を考えると競ってばかりいたらとっくに引退しているだろうし、こうしてやり過ごすこともまたひとつの戦い方だと思う。

 しかし、そこまでして地下アイドルを続けたい理由は自分でも明確にわかっておらず、辞め時のわからなさも含めて、この仕事はギャンブルみたいだと思う。

●姫乃たま
1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。地下アイドル、ライター。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。11月23日にフルアルバム「First Order」を全国発売決定。
★公式サイト<http://himeeeno.wix.com/tama
★公式Twitter<https://twitter.com/Himeeeno
★「恋のすゝめ/僕とジョルジュ」<https://youtu.be/KH4HGsKyFEo

<ライブ情報>
姫乃たま3rdワンマンライブ「アイドルになりたい」
日時:2017年2月7日(大安吉日) OPEN18:00 START19:00
会場:渋谷WWW(東京都渋谷区宇田川町13-17 ライズビル地下)
前売り券¥2500 当日券¥3000
ACT:姫乃たま / 僕とジョルジュ DJ 中村保夫(和ラダイスガラージ)

チケット絶賛発売中!▼
http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002205215P0030001

潜行~地下アイドルの人に言えない生活

潜行~地下アイドルの人に言えない生活

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