【実写映画レビュー】ハーレイ、お前はもっとできる子だろうが! 『スーサイド・スクワッド』は“ハーレイ汁”が足りない!?

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 アメコミ「DCコミックス」世界の悪党(ヴィラン)たちがチームを組む映画『スーサイド・スクワッド』の「ソレジャナイ」感を、いったい何にたとえるべきか。

 駅前の中華屋でドカ盛りチャーハンでもかきこもうと思ったら、満漢全席のフルコースがスタートしてしまったような。

 ラーメン二郎で胃袋をジャンクに満たそうと思ったら、本枯れ鰹と利尻昆布で本格的にダシを取った自然派健康志向のラーメンを出されたような。

 縁日の屋台で太いキュウリを豪快にかじりたいだけだったのに、有機野菜のバーニャカウダwith手作りドレッシングが、店主のウンチク付きで供されたような。
 
 しかし、この“事故”は起こるべくして起こった。飲食店をのれんで判断するように、映画は宣伝や予告編で判断するものだが、『スーサイド・スクワッド』の宣伝や予告編は、とにかく金髪ツインテールのエロ姉ちゃんことハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)推し。おバカ映画感全開だからだ。

 ハーレイのいでたちは、ピタピタTシャツにピタピタショートパンツ、けしからんエロボディ。どこからどう見てもビッチ。そんな彼女が男どもをガンガンぶっ倒す、ポップで、ぶっ飛んでいて、不健全で、下品な、痛快B級おバカ映画に違いない。ヒャッホウ! ……と期待した。

 しかし、実際皿に盛られてきたのは、バランス感覚あふれる、配慮の行き届いた、わりと行儀の良い、ちゃんとした大作アメコミ映画だった。ごめん、観たかったのは、ソレジャナイ。

 物語の舞台は、バットマンやスーパーマンが活躍する「DCコミックス」の世界だ。

 アメリカ政府の高官アマンダ・ウォーラーは、服役中の悪党たちを集めて「スーサイド・スクワッド(決死部隊)を結成する。メンバーは、スナイパーのデッドショット(ウィル・スミス)、バットマンの宿敵ジョーカーの愛人であるハーレイ・クイン、ブーメラン使いのキャプテン・ブーメラン、手から炎を出すエル・ディアブロ、皮膚が爬虫類系のキラー・クロック、縄使いのスリップノット。逆らえないよう体内に小型爆弾を埋め込まれている彼らが立ち向かうのは、世界の崩壊をもたらす強大な敵であった――。
 
 で、何がソレジャナイって、キュートでエロいハーレイの出番、無双度、はじけっぷりが、圧倒的に足りないのだ。

 彼女はもともと地味な精神科医だったが、ジョーカーによって精神改造された結果、残酷でエロス全開のサイコパスガールになった。キャラ設定だけでヨダレが垂れる。にもかかわらず、本作での狂い咲きは不完全燃焼といわざるをえない。お前はもっとできる子だろうが!

 ただ、これは仕方なくもある。実は本作の主人公はハーレイではなく、デッドショットだからだ。予告編や宣伝では圧倒的にハーレイを前面に押し出しているために勘違いしがちだが、クレジット順でもトップはデッドショット。それゆえ本編では、デッドショットが娘に抱く愛情が、けっこうな尺を割いて描かれる。

 しかし正直、デッドショットと娘との心温まる絆を描く暇があったら、ハーレイがバットで敵をぶちかますショットを、1シーンでも多く観たかった。

 また、本作は世界観や人物設定がそれなりに込み入っているため、説明を兼ねたシーンにそこそこの尺を費やしている。丁寧かつ親切、良心的な配慮ではあるが、その分ハーレイの登場シーンは減ってしまった。

 若干オカルトじみたラスボス誕生の過程、エル・ディアブロの悲しい過去、部隊を率いるリック・フラッグ大佐の葛藤、バットマンとアマンダ・ウォーラーの画策。そこに加えて、「悪人だけど仲間は大切にする」「悪人といえど守るべきものがある」的な、ヒューマンタッチなお行儀の良さも欠かさない。

 でも、ごめん、それ、望んでない。俺たちは、カワいくてエロい女の子が鈍器で人を殴ったり、武器で撃ちまくったりするのを、1秒でも長く観たいだけなのだ。即物的な満足が欲しいだけなのだ。

 ご飯が見えなくなるくらいの肉で覆われたローストビーフ丼を期待したのに、栄養のバランスを考えて6種類の生野菜ものせました、って言われても……。申し訳ないけど、その配慮いらないから。

 もちろん、筆者が低級な人間であることは自覚している。

 自分は、ジャッキー・チェンのアクション映画にストーリーはいらないと思うクチだ。AV本編の女優インタビュー(男性遍歴ほか、どうでもいい自分語り)は基本的に飛ばす主義だし、『機動戦士ガンダムUC』を観る理由は、ファーストを踏襲したデザインのモビルスーツが動くのを見たいだけ。正直“ラプラスの箱”の秘密なんぞ、どうでもいい。

 そういった人間にとって、『スーサイド・スクワッド』における丁寧な世界観の説明や、込み入ったストーリーや、脇役のバックグラウンド描写や、のちのち別のDCコミックス映画につながる設定諸々は、なくてもいい(ネットで調べるから)。四の五の言わずに、ハーレイの体をもっと映せよ!

 牛丼で速攻、胃を満たしたい時に、牛丼以外のものはいらない。にもかかわらず、食前酒のメニューを渡され、アペタイザーを選ばされ、ナイフとフォークをたくさん並べられても困る。四の五の言わずに、白米の上に牛肉ぶっかけて早く持ってこいよ!

 誤解のないように言っておくが、本作はちゃんと作られた映画だ。キャラクター造形も、ストーリーテリングも、アクションもVFXも、どこに出しても恥ずかしくない。ジャッキー映画のストーリーを楽しみ、AV女優のインタビューを飛ばさず、ラプラスの箱が気になる方なら、きっと何の不満もなく楽しめる。

 しかしそうではない、筆者を含む低級な人間にとっては、したたり落ちるジャンクな肉汁、エロねえちゃんが分泌する“ハーレイ汁”がやはり足りなかった。栄養バランスに気を取られ、ジャンクフードをむさぼる背徳的愉悦が手薄になってしまったのが、残念でならない。俺たちは常にハーレイ汁まみれでいたいのに。びしょびしょに濡れていたいのに。

 しかもその汁は、足りないうえに薄かった。健康に配慮なんかしてくれなくて結構。体に悪いギトギトの化学調味料で、俺の血管を詰まらせてくれよ! もっと濃い汁ぶっかけてくれよ! ツユダク万歳だよ!

 などとひとしきり興奮したあと、ふと気づく。ハーレイ汁が「足りない」「薄い」ことによって、自分がハーレイの虜になっていることに!

 ある時期までのiPhoneが、出荷数を巧みにコントロールすることで市場での枯渇感と期待感を煽り、「どうしても欲しい」という消費者心理を喚起したのは有名な話。「狙った男の子へのLINEの返信は、半日置いてじらすべし」と指南する少女向けティーン誌だってある。

 それと同じく、俺たちはハーレイ汁不足の本作を観た後、「もっとハーレイを見たい」という気持ちで、むしろ心がいっぱいになっている。これは……恋!?

 とはいえ、ハーレイを主役にしたスピンオフ映画の製作はだいぶ先っぽい。なので当座の汁補給手段として、10月末のハロウィンをおすすめする。コスプレした和製ハーレイが六本木・渋谷あたりに大挙して出現するだろうから、不審者扱いされない程度にハーレイ汁を補給に行こう。

 無論、本家にはクオリティ面で及ばないだろうが、借りたAVがイマイチだった場合、その辺に落ちている無料のエロ動画で間に合わせる場合もあろう。遠くの有機野菜より近くの駅前中華である。

 ……ほとほと、低級な人間ですみません。
(文・稲田豊史)

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