なんですか、この心地よい世界は! 新木伸『四億円当てた勇者ロトと俺は友達になってる』(角川スニーカー文庫)は、カバーデザインからして斬新な作品です。まあ、斬新すぎて書店じゃ置き場に困りそう。Amazonじゃ、イラストが横になった状態のまま表示されるし、色味がおかしいし、心配になります。
なぜ心配するかって? それは、この作品が、とことん幸せな気持ちを提供してくれるからです。
ハーフエルフのとれぼーは、勇者・ろとと同じパーティーを組んでいます。そんなある日のこと、ろとは「ロトで四億円があたった」と言い出したのです。
ええ、この作品はファンタジーじゃありません。2人は過疎ってるオンラインゲームでの仲間です(ここで、月額課金1,980円の素晴らしさを語り、ガチャなど最近のシステムを批判するのは作者の心の叫びでしょうか?)。
ろとは、いきなり島を買うなどの夢を語り始めますが、とれぼーはそれを止め、2人は初めて会うことになります。どうせ、30代のヒキニートのおっさんが浮かれてるんだろうと思ったら、ろとは、ボロアパートに暮らす残念系美少女だったのです。
どてらを羽織って、穴の空いたジーンズ。これまでどうやって生きてきたのか不安になる姿に、とれぼーは一緒に住んで四億円を管理することを提案します。
すわ、事件の香りが! 宝くじがらみの殺人事件って10年に一度は起きますからねえ。
でもね、この物語はまったく悪人が出てこないのです。とれぼーは、ろとに資産管理のために雇われている形を取り、共同生活を始めるんです。
──なんですか、このとれぼーという人は、聖者かなんかですか? ほんと、予想の斜め上をいく善人なのです。かたや、ろとは絶大な信頼を、とれぼーに置いています。なにせ一人称が「ぼく」だし「ケーキしゃん」とか、年齢よりも幼い言葉遣い。生活力云々というか、ちょっと足りてなさそうな感じもするけど、彼女はとれぼーのことが一番大好きな友達なんです。しかも、エロ展開なし!
そんな2人は、偶然パーティーの仲間である爆炎魔法の達人・ワードナーと、回復魔法の達人・ゾーマと出会います。ワードナーは、カッコイイお姉さん。ゾーマは、ナイスミドルなお金持ちの様子。ゲーム世界とはまったく異なる現実社会を生きている2人ですが、まったく壁をつくりません。4人仲良くアパートで鍋をつついたりします。それに、余計な詮索もしないし、クリスマスはそれとなく、とれぼーとろとが2人きりで過ごすように仕向けます……何も起こりませんが。
こうして、物語はクリスマスから正月へと季節の移ろいを描きつつ、特段何も起こらない2人の日常を描いていくんです。四億円あれば1年に500万円使っても80年は暮らせるという安心感があるとはいえ、2人はごくごく平凡に暮らします。そんな2人に関わるワードナーとゾーマも、困った時には助けるけれども、普段はそっと見守る大人な対応。なんですか、ホント、イイ人ばっかりじゃないですか!
読了するまでに、褒めるとかいうレベルを超えた、またとない充実感を得ることができました。
どんなご都合主義が出てこようとも、2人の幸せそうな姿の前には無問題です。
(文=大居候)
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