『セブンス』(三嶋与夢)冒険者の最初の仕事は溝掃除──ダメ息子がお爺ちゃんたちに怒られながらも成長する青春記

 また「小説家になろう」の投稿作品から書籍化かよ……。最近「アクセス数ナンタラの人気作がついに書籍化」という類いの売り文句に食傷気味だった筆者。舐めて読み始めたら、引き込まれて一気に読んでしまいました。舐めてかかって、ホントにごめんなさい。

 さて、今回紹介する三嶋与夢(著)・ともぞ(イラスト)『セブンス』第1巻(ヒーロー文庫)。驚いて読み終わった後に考えたのですが、本そのものが「これはスゲえ作品だぞ」というオーラを放っています。なにしろ、ヒロインを中心とした萌えてるイラストを配置するのが当たり前なのが、ラノベのカバーというもの。なのに、この作品はカバーが男だけではありませんか! 出版社の側が「中身で勝負できる作品だ」と自身を持って世に送り出していることが、スキルのある読み手ならば自ずと理解できるでしょう。

 そんな力強い作品のあらすじを一口で言い表すならば……実家を追い出された主人公が、お爺ちゃんやご先祖様の助けを借りて冒険者として頑張る青春譚……というものです。

 物語の主人公・ライエルは現在8代目となる領主貴族・ウォルト家の長男。先祖が土地を開拓し、今では王国でも重要な地位を得た名家に生まれたライエルは、将来は9代目の領主となる……はずでした。

 でも、今の彼は15歳にして父親にも母親にも見放され、ついに次期当主の座からも外されてしまったのです。その理由は、二つ年下の妹・セレスの存在。その歳にして既に妖艶な美しさを纏う妹によって、ライエルは家族にも冷たくされていました。そして、ついに剣の腕も。

 毎日のようにサーベルの修練をしていたライエルは、誕生日にレイピアをもらったばかりのセレスに一撃も加えることができず、ボコボコにされてしまったのです……。

 妹に剣の腕を「うわぁ無様ね」とせせら笑われ、魔法で吹き飛ばれて失神してしまう主人公。いきなりプライドはズタズタ、悲惨の一言です。

 こうして、生家に居場所がないと悟ったライエルは、家を出て冒険者になる決心をします。「ライエルは廃嫡の上で追放」という知らせを受けた婚約者でフォクスズ男爵家の次女・ノウェムは「婚約も解消」に納得せず、ライエルに押しかけ女房的に同行します。そして、もうひとつライエルは、屋敷の庭師であるゼル爺さんが先代、ライエルの祖父から預かったままだった宝玉を渡されていました。

 その宝玉には「アーツ」、この世界における魔法とは異なる神から与えられし力が込められていました。そして、この宝玉の持つアーツとは……ウォルト家の初代から7代目までがライエルだけに見える形で顕現することだったのです。

 そう、ライエルの前にお爺ちゃんに、ひいお爺ちゃん、さらにその先のご先祖様までが姿を現しては時には助言し、時には説教してくれるというわけです。なんか役に立ちそうな力だ! と思うかもしれません。でも「船頭多くして船山に登る」ということわざもあるように、7人は多すぎ。ライエルを見て「……情けない」と嘆くご先祖もいるかと思えば、その逆もいます。でも総じて、態度は厳しめです。なにしろ、ライエルはノウェムと一緒に食事に出ても、注文を決めることもできないのですから……。「ないわ~」と、ご先祖に嘆かれるライエルの姿には、お前は俺か? と妙な親近感が沸いてきます。

 ひたすら説教がキツい、ご先祖ですがノウェムが着替えたいのに、察して部屋を出ることもできないライエルですから「お前、鈍いのか? それとも計算か? お前が女を知るのは十年早い!」と怒られるのは、さもありなんです。

 そんな説教し通しの、ご先祖ですがライエルの状況を危機、セレスにかつての傾国の美女の血が流れているのではないか……と考えたりしてくれます。さすがは先人の知恵!

 でも、このアーツの欠点がひとつ。そうやって説教も助言もしてくれますが、特段、急にライエルが強くなったり、富を与えてくれるわけじゃないのです。ですので、冒険者ギルドに登録したライエルの最初の仕事は溝掃除……名門のボンボンがダメダメになったところからの再スタート。それはなんと地道な作業でしょうか。

 乳母日傘に育った主人公が、人生の先達たちに怒られながら社会を知っていく。そんな古きより青春小説のノリがあるから、この作品は魅力的なのでしょう。こんなに読者が自分を投影しやすい主人公とはラノベでもなかなか出会えません。

 そんなキャラ造形をできた作者の想像力を徹頭徹尾、賛美したいと思っています。
(文=大居候)

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