茜屋日海夏はじめ、“舞台初挑戦の声優”の演技が素晴らしかった! 舞台『クォンタム・ドールズ』ゲネプロレポート

 2016年1月6日(水)から上演開始となったアリスインプロジェクトの舞台『クォンタム・ドールズ~量子境界の遊歩者~』。初日、メディア向けの公開ゲネプロ行われた。

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 アリスインプロジェクトの新作『クォンタム・ドールズ~量子境界の遊歩者~』。あらゆる武器を転生させ、少女精霊として使役する乙女たちが織りなす運命の戦いを描く。演出家に『魔銃ドナー』『新・戦国降臨ガール』『ヨルハVer.1.1』のヒットも記憶に新しい、まつだ壱岱氏を迎える。また、TEAM AZURA指導による剣殺陣とガンアクションで、ガールズ演劇界最高峰のステージを彩る。

 出演は、声優アイドルグループi☆Risから茜屋日海夏澁谷梓希、2015年3月に惜しまれつつ無期限活動休止を宣言したBerryz工房の須藤茉麻、元SKE48の加藤智子、STAR☆ANISの遠藤瑠香、ミルキィホームズシスターズの伊藤彩沙、友情出演に今出舞と栞菜、そしてさらに梅田悠などアイドルや女優など女性キャストオンリーの総勢37名となっている。

1601_alicein_gene_02阿良木明里役の茜屋日海夏。初舞台とは思えない程の表現力。

 ゲネプロを見て、まず驚きを隠せなかったのが、主演・阿良木明里役の茜屋日海夏の完成度の高い演技。茜屋は声優として数々の作品に参加してきたが、舞台出演は今回が初めて。そして、初主演である。声だけでなく、表情や身体の動きを含めて表現することに、慣れてはいないのではないかという心配すら必要がなかった。稽古を通して、先輩役者に支えられて来たことを本人も語っていたが、ダイアローグをとっても、殺陣をとっても充分すぎるほどの質の高さを見せていた。声と実像。伝達するものの違いこそあれど、これまでの声優としての経験が発揮されていたのも事実。また、役者として舞台に立つために相当な努力を重ねた事が伺える。

 ゲネプロ終了後の記者会見では「緊張しました。でも集中力を保って、みんなで最後まで作り上げられたので、千秋楽まで、みんなで頑張っていけるなと自信が付きました」と語り、手ごたえを感じている様子だった。また、初体験の殺陣については「周りのみんなに教えられつつ、ここまで来ました」と感謝の気持ちを表していた。

1601_alicein_gene_03八咫烏(やたがらす)役の澁谷梓希(右)。武器として戦うために生まれてきたのだが……。

 また、茜屋同様、声優として活躍する八咫烏(やたがらす)役の澁谷梓希についても、称賛の拍手を送りたい。演出のまつだ壱岱氏の記者発表会でのコメント通り「イケメンボイス」であることは、開始早々に分かった。間違いなくイケメンだ。声だけでなく、立ち振る舞い、キャラクターを含めてイケメンと言っていいだろう。記者発表会では、終始、人懐っこい笑顔を見せていたのだが、舞台上では、強く時に強引に茜屋演じる明里を引っ張る存在になる。役自体は「武器」になる精霊。いわば「モノ」と「ヒト」との中間的な存在で、痛みを感じ、毒づき、意志を持ち、悩みさえする。非常に難しい役どころと言って間違いない。あまり詳しく言えないのがもどかしいが、武器として「エンゲージ」するパートナーの明里との関係が、物語のひとつのキーになってくると言っていいだろう。それだけ重要な役割を、見事にやり切っている。彼女もまた初舞台である。
 
 ゲネプロ後の記者会見では、「明里あっての八咫烏で、2人で合わせる稽古の時間がなかなか見つからなかったのですが、合間をぬって一緒にやってくれました。また、2人が一緒の時に周囲のキャストさんたちがサポートしてくださって、助けてもらってばかりでした。千秋楽までに演技をしていく中で、恩返したい」と語った。

1601_alicein_gene_04草間玲役の伊藤彩沙。複雑な世界観の案内人としての役割も。

 そして、同じく声優の世界から参加しているのが、草間玲役の伊藤彩沙。彼女の役は「普通の人間」。こう書くとオカシイ気もするが、登場人物のほとんどが、世界を守る戦⼠たち「フレイア」、武器の精霊である「インヘリアル」、そして世界を破滅に導こうとするアーデルハイドたちという構成なので唯一普通の存在であるとも言える。実際は「普通」なのか断言できない危うさがあるものの、草間玲は、物語の世界を観客と同じ視線で見ることのできる立場にいると言っていい。それだけに彼女の台詞はストーリーを理解するのに役立つ。彼女の聞きやすく可愛らしい声が耳に残っている。演技自体も自然で、ところどころに見せたコミカルな雰囲気の動きも面白かった。彼女もまた初舞台とは思えない出来栄えである。

1601_alicein_gene_05アーデルハイド役の梅田悠。

 特別出演の梅田悠については、ただただ迫力に圧倒された。世界を破滅に導こうとするアーデルハイドを演じるのだから「ラスボス」感は欠かせない。それを出だしから見せつけてくれた。一番印象に残っているのが、アーデルハイドの笑い方だ。上品な微笑みではなく、まさに悪意丸出しの笑みで、そのまま喰われるのではないかと思えるほど大口を開けて笑う。彼女が「9つの柱」の一つであるランドグリースを手に入れる方法も狡猾。手下であるハーピィに対する仕打ちも、明里に対しての敵意を持つ理由もまた悪意そのものである。 だが、その悪意は彼女一人のものなのか。なにかを象徴しているのではないかと思えなくもない。

 梅田は「ラスボスの難しさを今回はじめて知った」と語り、稽古中の口ぐせが「早く死にたい」だったことを明かした。最初、稽古に合流した時は「不安しかなかった」とのことだが、今では「全員を信頼していて、どのシーンでも安心して、お芝居が出来る」と座組の結束力を感じさせた。

1601_alicein_gene_06ハーピィ役の今出舞(右)とバーブラ役の花梨(左)。

 梅田と共に悪役のハーピィを演じる今出舞については、前回の記事で「華奢」と表記して、本人やファンの方からクエスチョンマークを送られたが、今でもチェーンソーを振り回すイメージではないと言い切りたい。しかし、それはあくまでステージの外での話。いざ舞台に上がった彼女を見るとヒール役に徹しており、チェーンソーでの殺陣を楽しんでいるようにさえ見えた。これだけのべっぴんさんの笑顔を見ながら斬られるなら、意外と幸せかも知れない。役そのものは悪役なのだが、やはり「武器」であるバーブラとの関係は密で、ラストシーンに近くなるにつれて切なささえ感じさせる。花梨は今出との共演が3回目。今回、ペアを組む形になったことについて、喜びを隠せない感じだった。今出は、「プレ・ラスボス」という立場について「私は、もっと戦いたいのにボスが使えないと言ってくる」と語り、「わりと頑張ってるんですけどねぇ」と付け加えていた。

1601_alicein_gene_07「失われた九つの柱」のひとつランドグリースを演じる須藤茉麻。

 さて、世界を守る戦⼠たちフレイア、世界を破滅に導こうとするアーデルハイド。そのどちらも求める「失われた九つの柱」の存在がある。それを手にするものが大いなる力を持つ、ということだけお伝えしておこう。そのキーとなる存在のひとつ、ランドグリースを演じるのが須藤茉麻だ。彼女はBerryz工房のメンバーとして活動していた時期から舞台に立っており、普通の女の子だけでなく、「三億円事件」の犯人、自衛隊員などアイドルらしからぬ役柄も経験している。今回もその力の大きさ故に苦悩する姿をしっかりと演じ、時に神々しささえ見せていた。

1601_alicein_gene_08麻宮真由美役の栞菜。武器はコルト・シングルアクション・アーミー。

 友情出演の栞菜は「まつだ壱岱さんの舞台に出て、アクションをやりたいという希望がやっと叶った」という。前作の『新・戦国降臨ガール』にも栞菜は出演しているが、高貴なミカド役で殺陣に参加することがなかった。それだけに今回の麻宮真由美役は、待ってましたとばかりに派手なアクションを見せていた。明里とタメを張れる程の強さを持ち、バトルを繰り広げる彼女を栞菜だと認識するまでに、筆者はいくらか時間を要した。それだけ役に溶け込んで、違うものを見せてくれたということだろう。実に振り幅の大きな役者だと思う。ゲネプロ後の記者会見では「今回初めて、ガンアクションをガッツリ出来て、すんごい楽しいです!」と笑顔で語っていた。

1601_alicein_gene_09鞍馬兎子役の黒原優梨。

 鞍馬兎子役の黒原優梨。彼女の見どころの一つ目は「口調」かも知れない。昨年10月に上演された舞台『AKIRA』でも、突然関西弁で語り始めるシーンがあり、観ていて飽きなかったが、今回の兎子も、その育ちゆえにほかの登場人物とは違う口調で話す。どこか途中で普通の喋り方が出ないかという意地悪な見方をしていたのだが、終始役柄に徹していた。そして、本作の要でもある殺陣のシーンも素晴らしかった。特に物語後半で見られる二刀流の殺陣については、その立ち振る舞いの美しさに思わず息を飲んだ。アリスインプロジェクトの舞台『魔銃ドナーKIX』に続いて、本作が殺陣シーンとしては2作目というから驚きだ。

1601_alicein_gene_10まつだ壱岱氏が得意とする銃と刀が入り乱れての殺陣。アクションシーンも本作の見どころ。

 また、鞍馬兎子の武器となる大倶梨伽羅(山本太陽)との会話もテンポよく、時に少しお茶目さが出ていて、ほかとは違うフレイアとインヘリアルの関係性を見ることが出来た。また、エンゲージ後のフレイアとインヘリアルは、殺陣のシーンでシンクロした動きを見せるのだが、これも息の合ったもので、稽古を重ねた成果が見られた。

 黒原は、稽古の様子について「始まった頃は和気あいあいとしていたが、本番が近づくにつれ、良いピリッと感が出て、みんなが緊張感を持って挑んでいることが伝わる稽古場になっていった」と語った。ゲネプロを終えて「自分自身を含めて、みんながまだまだレベルアップをしていけると思うので、みんなで力を合わせて頑張っていきたい」と前向きな発言をしていた。「(役のキャラクターは)地ですか?」という記者の質問には、周りのキャストたちに確認しながらも「地じゃないです」と笑って答えていた。

 個々の役者については、この辺で話をとどめておくこととして、そのほかの要素について幾つか書き残しておこう。

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 前述のように、本作にはインヘリアルと呼ばれる武器の精霊が多く登場するが、それぞれ「武器なのに喋り出す」という不思議さが面白い。いわゆる「擬人化」というものがアニメやゲームなどの世界では一般化されて来ているようだが、舞台上で生身の人間が武器を表現するのは、恐らく本作が初ではないだろうか。キャスト一覧には、平家一門の家宝として伝えられた日本刀「小烏丸」や、M4カービンなど軍用小銃で有名な「コルト」といった単語が並ぶ。それぞれの衣装も時代を意識した凝った造りになっており、武器マニアの方にとっても興味深いものになっているのではないか。

 演出のまつだ壱岱氏は本作について、「すごく複雑な世界観になっていて、それを紐解く作業をずっと続けていた」と語っていたが、ゲネプロを見終えてその複雑な世界を分かりやすく伝えようとする意図が垣間見えた。「少女たちの代理戦争」。そこ美しさや儚さを感じるのも一つの見方。一方で、そんな戦いを避けるにはどうしたらいいのかと観客に対して問いかけているようにも思えた。

 世界を滅亡に導く「悪の権化」アーデルハイドの台詞に、数々の戦争の歴史や武器について語る部分がある。それを聞きながら戦争を繰り返す人間の愚かさを感じざるを得なかった。われわれ人間たちは今日も世界のどこかで戦争をやめようとしない。または武器商人たちが喜んで焚き付けている現実がある。むしろ現実の人間に近いのはアーデルハイドの方ではないのかとすら思えてくる。しかし、アーデルハイドが持ち得なかった「誰かを守ろうとする気持ち」を、我々は持っている。そこに幾ばくかの希望があるように思う。

『クォンタム・ドールズ』に限らず、まつだ壱岱氏の作品には、刀や銃を使った大胆なアクション、SF的な創造の世界、キャラクターの面白さがある。それだけでなく人間同士あるいは「ヒト」と「モノ」との関係性に注目して見ると、涙さえこぼれることがあるのではないか。これから観劇しようという方は、ぜひハンカチを持って出かけてほしい。公演は1月11日(月・祝)まで。 
(取材・文/矢口 明)

★次ページにも写真あり!

■アリスインプロジェクト2016 年 新春公演
舞台「クォンタム・ドールズ」

●キャスト●
シングルキャスト
阿良木明里/茜屋日海夏
ランドグリーズ/須藤茉麻
八咫烏/澁谷梓希
榊秀子/加藤智子
烏丸千鶴/遠藤瑠香
鞍馬兎子/黒原優梨
草間玲/伊藤彩沙
バーブラ/花梨
メリーベル/石塚汐花
大倶梨伽羅/山本太陽
安藤昇子/舞原鈴
大城美雪/幸野ゆりあ
コルト/加藤美紅
小鳥丸  近藤優衣

友情出演
麻宮真由美/栞菜
ハーピィ/今出舞

特別出演
アーデルハイド/梅田悠 ほか

●チケット&スケジュール●
【日時】
2016年1月6日(水)~11日(月・祝)
9日(土) = 13:00(光組)・18:00(風組)
10日(日) = 13:00(風組)・18:00(光組)
11日(月・祝) = 12:00(光組)・17:00(風組)
※終了した日程については、記載しておりません。
※(光)(風)の一部ダブルキャスト
※一部ダブルキャスト

【会場】
新宿村LIVE(228席)
東京都新宿区北新宿2-1-2 新宿村CENTRAL B2F
【チケット料金】
S席6800円(最前3列)・A席5500円(4列目以降)
※全席指定
カンフェティ(http://www.confetti-web.com/detail.php?tid=32000&)チケット発売中
【アリスインプロジェクト公式サイト】 http://alicein.info/

【あらすじ】
あらゆる武器を転生させ、少女精霊として使役する乙女たちがいた。
これは伝説の武器精霊を巡る、乙女と少女の織りなす運命の戦いである。

世界を守る戦士たちフレイア。世界を破滅に導こうとする【アーデルハイド】。
2つの力は世界の命運を決める「失われた九つの柱」を奪い合う。
フレイアの新人戦士、【安良木明里】は
九つの柱のひとつ【ランドグリーズ】と出会い、
彼女を守ることを決意する。

果たして明里は世界を守ることができるのか?

1601_alicein_gene_12出演者集合写真。
1601_alicein_gene_13やはり、アクションシーンは、見どころのひとつ。素手での戦いも。
1601_alicein_gene_14どんな武器で戦うのか?組み合わせの多様性は類を見ない。
1601_alicein_gene_15メリケンサックVSチェーンソー。
1601_alicein_gene_16大倶梨伽羅役の山本太陽。
1601_alicein_gene_17コルト役の加藤美紅。個々の衣装の完成度も高い。

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