『ここさけ』ファンも大河ドラマ愛好家も感涙する!? 異次元へ誘ってくれるタイムマシンとしてのラブホ機能

1512_rabuho2.jpg『日本昭和ラブホテル大全』(著者/金益見、村上賢司 発行・販売/辰巳出版)

 大人の男女にとってもっとも刺激的なアミューズメントパーク、それはラブホテルだ。ドキドキしながらフロントをくぐり抜け、エレベーターに乗って好みの部屋へと上がっていけば、全身のアドレナリンも急上昇。心臓音が共鳴し、しっとりと汗ばむ恋人たち。ドアを開ければ、後はもうめくるめく快感パラダイスが待っている。そんなリアルな夢空間を図鑑にして、手軽に楽しませてくれるのが『日本昭和ラブホテル大全』(タツミムック)だ。タイトルにあるように惜しまれつつも閉館した昭和遺構的な名物ホテルから、逆に激しい時代錯誤感からコスプレイヤーたちに人気を博するようになった現役ホテルまで、全国各地の“愛のパワースポット”を紹介。読者の妄想力と下半身に同時に訴え掛ける一冊となっている。

 最初に登場するのは大阪市にある「ホテル富貴」。妖しいネオンが誘蛾灯のように光り、思わず羽虫にように引き寄せられる。40年前に開業した当時のままの外観で、昭和時代へのタイムスリップ感がハンパない。ジャック・フィニイのSF小説『ふりだしに戻る』の主人公はダコタハウスの一室に篭ることで19世紀のニューヨークへタイムスリップするが、本誌のページをめくっているうちに自分もどんどん時間の概念が失われていくのを感じる。恋人たちが醸し出す淫靡なフェロモンがたっぷり染み込んだレトロな階段や廊下を通って部屋に入ると、さらに衝撃が走る。お風呂の湯船はなぜか前方後円墳型。一体どのように使えばいいのか。気になるベッドは神殿風の壇上に鎮座してあり、男女の営みがまるで神事のように厳粛なものに感じられる。昭和セックスの奥深さに、思わずため息が漏れる。

 続いて同じく大阪市の「ホテル千扇」。1964年に開業したこちらはさらにドストレートな昭和仕様で、ラブホというよりも連れ込み旅館といった風情が漂う。松本清張原作の2時間ドラマの主人公になった気分が満喫でき、ドキドキ感がますます高まる。寝室は畳み部屋の純和風だが、ふすまを開けるとそこにはエプロン姿の家政婦が……。いや違う、ふすまを開けるとそこは一面鏡張りに。鏡の向こうの隠し部屋で影男がこちらを覗いているのは江戸川乱歩だったか。清張と乱歩が妄想の世界で一緒になって、高笑いしながらフォークダンスを踊り出す。

 70年代を代表する人気映画『スター・ウォーズ』(77)の新作が絶賛公開中だが、SF映画好きな人なら一度足を運んでみたいのが、山形市にある「アイネUFO」。ホテル全体が巨大UFOをイメージしたものとなっており、緑色にライトアップされたミステリアスな外観は否応なく人目を惹く。地球人のアダブテーション化を企む宇宙人によって、意識を失った大人の男女が次々と吸い込まれていったはずだ。『未知との遭遇』(77)や矢追純一のUFO特番に夢中だった少年期の好奇心が蘇る。料金の支払いはエアシューターというレトロフューチャーなところがまた泣かせる。山形の他にも千葉や富山にもあるUFO型ラブホで生を受けたスターチャイルドたちは、いつか遠い宇宙から迎えが現われる日を待っていることだろう。

 NHK大河ドラマ『真田丸』を楽しみにしている歴史好きな人におすすめなのが、神奈川県伊勢原市にある「くちなし城 桃源郷」。今ではすっかり少なくなった日本の城郭を模したラブホで、戦国大名気分が味わえる。お城マニアならずとも、心の中のホラ貝を思いっきり吹き鳴らしたい。お城型ラブホといえば、ロングランヒット中の青春アニメ『心が叫びたがってるんだ。』では重要な役割を負っていた。“ここさけ”の舞台となった秩父市の羊山公園には実際には城型ラブホは存在しないが、そこで代用したいのが千葉県千葉市にある「ホテル・ファミー」。ディズニーランドのシンデレラ城に引けを取らない立派な洋風のお城となっており、コスプレ撮影にもよく利用されるとのこと。“ここさけ”世界の余韻に浸かっていたい人は一度試してみてほしい。

 長年にわたってAKB48を応援してきたファンならチェックしておきたいのが、千葉県柏市にある「ホテルブルージュ」。まるで宮殿のような白亜の外壁に、ルネッサンス朝を思わせるゴージャスな調度品の数々。ここでは前田敦子主演の『さよなら歌舞伎町』や大島優子主演の『ロマンス』といった劇場映画の撮影が行われている。前田敦子が音楽プロデューサーを相手に枕営業したのも、大島優子が逢ったばかりのオッサンと一晩過ごしたのもこのホテルというわけだ。AKBの二大エースが共にこのラブホから本格女優を目指して羽ばたいていったかと思うと感慨深い。朝、ベッドで目を覚ますと、彼女はもう姿を消していた。灰皿にはルージュの付いたタバコの吸い殻だけが残っていた。よく分からないが、そんな気分だ。

 都内にも脳天を鈍器で殴られたような衝撃を与えてくれるホテルがある。1979年にオープンした港区の「アルファ・イン」は、世界でも有数なSM専門のラブホ。ここの客室選択パネルがすごい。「痴乱将軍」「奴隷市場」「排泄学園」「晒し便器」「萬華鏡」「定期検診」……。文字だけのパネルなのだが、目にしただけで猛烈な背徳感に襲われる。それぞれの部屋で一体どんな痴態が繰り広げられているのか。アダムとイヴが知恵の実を齧ってから、人類の性行為はここまで進化を遂げたのかという感動すら覚える。各部屋にはムチやロープが常備され、また自分専用の器具や衣装を預けられるロッカーもあり、いつでも手ぶらでチェックインできる。壇蜜のようなボンテージファッションの似合う彼女ができたら、いつか訪れてみたい。

 数々のゴージャスホテル、ファンシールームを生み出してきた、“ラブホ界のウォルト・ディズニー”こと亜美伊新のインタビューも掲載されており、ラブホテルの全体史を知ることもできる。『マツコ&有吉の怒り新党』(テレビ朝日系)でも紹介された亜美伊新は、鏡張り部屋、回転ベッド、客室選択パネルといった大ヒットアイテムを発案したカリスマ設計士だ。インタビューによると、もともとは幼稚園のデザインを手掛けていたとのこと。園児たちが楽しんでトイレに行けるようにウサギやリスを象ったオマルを考え出し、ゾウの鼻の形の滑り台を作り、園児たちを喜ばせていた。そんなときラブホテルの設計も依頼され、ラブホ業界に大革命をもたらすことになる。

「(幼稚園もラブホも)発想は一緒です。セックスしている時はほとんど幼稚語。難しいことは言わんでしょ」

「(一泊30万円する部屋を作り)最初は馬鹿かアホかと言われましたが、ふたを開けてみると月に1500万円から1800万円の売り上げがあった。今や語り草です。馬鹿かアホかと言われた部屋は必ず流行る、というのが私の持論」

 通算1600軒以上ものラブホテルをデザイン・プロデュースしてきた亜美伊新の台詞には「なるほど!」とうなずかせる説得力がある。かつては日陰の存在だったラブホテルだが、亜美伊新の参入によって創意工夫が進み、春画やアダルトビデオと同様に日本独自のカルチャーへと発展していった。天才クリエイターがマーケティングを一新する。ラブホ界の伝説巨人の言葉に触れながら、そんなことを考える。

 日常生活における非日常性を提供してくれるラブホだが、密閉された構造ゆえに外界とは時間の流れ方が異なるエアポケット空間でもある。バブル期や高度経済成長期に建てられた昭和ラブホテルは、もはや設計者やオーナーの思惑を飛び越え、さまざまな時代へと誘ってくれるタイムマシン的な機能さえ帯び始めている。ラブホとは単に性欲を満たすだけの場所ではない。甘酸っぱい青春時代から中世や未来といった未知なる世界へもタイムワープさせてくれる魅惑的な愛の装置(ラブマシーン)なのだ。
(文=長野辰次)

『日本昭和ラブホテル大全』
著者/金益見、村上賢司 発行・販売/辰巳出版

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