【劇場アニメレビュー】少女たちのピュアな思いとWUGナーの熱き思いが交錯! 後編が待ち遠しくなる『WUG!』前編

0920_WUG.jpg『WUG!ポータル | Wake Up, Girls! Official website』より

『けいおん!』をはじめ『ラブライブ!』『アイドルマスター』『アイカツ!』などなど、このところ音楽と少女、もしくはアイドルを融合させたアニメーション作品が花盛りではあるが、『Wake Up,Girls!』もその流れに属するものではある。

 基本ストーリーは、東日本大震災後の仙台を舞台に、しがない地方芸能事務所の社長・丹下順子が、ご当地アイドル・ユニットを作って売り出そうと発案したことから集められた7人の少女たちが、ケンカや確執などを経て連帯し、芸能界の荒波を乗り越えていく青春群像劇。

 はじめに第0話ともいえるユニット結集のエピソードが、映画『劇場版Wake Up,Girls! 七人のアイドル』(14)として描かれ、その後全12話TVシリーズ(14)がオンエアされた。

 本シリーズの特徴は、他の作品群と比べて芸能界内幕もの的な要素を強め、そのドロドロしたリアルな世界の中で10代の少女たちがもがき苦しみながらも前を向いて健気に歩いていく姿をストレートに描いていることにあるだろう。

 特に顕著なのは、もともとトップ・アイドル・ユニットI-1clubのセンターを務めていたものの、根も葉もないスキャンダルで責めたてられて芸能界から一度は姿を消した島田真夢が、Wake Up,Girls!(以後WUGと略)に加入して再生を果たすという設定で、最初の劇場版ではそんな彼女のエピソードをメインに据えていた。

 それ以外にも、真夢の親友でアイドルとしての技量不足を努力で補おうと懸命な林田藍里、幼い頃から地元で芸能経験があるがゆえに伸び悩む生真面目な七瀬佳乃、震災を機に素直になれなくなったヤンキー娘の菊間夏夜、メイド喫茶でバイトしながらアイドルに憧れる萌えっ子の岡本未夕、光塚歌劇団への入団を目指しているエリート志向の強い久海菜々美、仮設住宅で暮らしながら老人たちのアイドルと化して久しい食いしん坊の片山実波と、キャラクターとしてそれぞれ立った個性的な面々は、非常に覚えやすく、好感度も高い。

 そんな彼女らと対峙して、ファシズム的にも映るI-1club内の熾烈な競争描写は、誇張されているとはいえ、どこか現実のアイドル・シーンを彷彿させるものがある。

 さらにはこの作品、アイドルを支えるファンにも光が当てられているのだが、見るからにヲタさんの大田くんがWUGナー(WUGファンのことです)第1号として奮闘していくさまが最初はキモく、次第に古武士のようにかっこよく見える瞬間も(ごくごくたまに)あったりするのが面白い。

 そもそもこの作品、7人の声優を全国オーディションで選抜し、彼女たちには現実のアイドル・ユニットWake Up,Girls!としても活動してもらうという二重構造にもなっており、アニメと現実の双方から少女たちの成長を見守り応援できるというスタンスもまた興味深いのであった。

 さて、最初の劇場版とTVシリーズを経ての新作映画『Wake Up,Girls! 続・劇場版 前篇〔青春の影〕』は、いよいよWUGが東京進出を果たすものの、周囲のさまざまな思惑によってなかなか思い通りにいかず、少女たちが悩み苦しんでいく姿を描いたものである。

 とりあえず最初に言っておくと、この作品、作画が素晴らしい!

 TVシリーズが最初にオンエアされた際、悲しいかな数々の作画崩壊がネット上で話題になってしまった本作ではあったが(多少の作画崩壊には動じない70年代アニメ世代の私ですら、時折絶句することはあった……)、今回はその悪評を払拭するに足る秀逸な作業がなされている。

 また、最近はアニメも実写も2部作流行りではあるが、およそ50分ほどの中編を前後編でお披露目するくらいなら、いっそ100分の長編として一気に見せてほしいというのが偽らざる気持ち。

 しかしこの『青春の影』なる作品、2部作の前編として非常に上手い構成になっており、レコード会社の押し付けで似合わない楽曲を歌わされた末(面白いもので、少なくともWUGナーならば、その曲が本当に彼女らに似合わないことを体感できるような、そんな曲が用意されている)、人気の低迷にあえぐ7人が再び希望を見出して立ち上がるまでを描き得ていることで、これ1本で既にカタルシスがもたらされる。

 不思議なもので、最後の最後まで見終わった後、すぐさま後編を見たくなるのが人情としても、それ以上にこの前編をもう1回見直したくなってくる。

 というか、数か月後に公開予定の後編に備えて、この前編を隅から隅まで把握して、骨の髄まで染み込ませておきたくなる欲求にかられるのだ。
(ちなみに私はこの作品を試写で見せてもらったのだが、その帰り道、もう辛抱我慢できなくなり、即座に映画館に寄って前売り券を購入してしまっていた。そんな映画、滅多にあるものではない)

 これぞ前編映画として理想的な姿ではないだろうか。

 ネット上でのマニアとのバトルなど数々の武勇伝で語られがちな山本寛監督ではあるが、一方では自身の会社をOrdet(オース=カール・ドライエル監督の名作映画『奇跡』の原題)と名付けているように、常に映画的感性をもって作品と対峙し続けているところに私などは非常に好感を抱いている。
(思えば本作のTVシリーズのサブタイトルは、すべて黒澤明監督作品のもじりであった)

 今回もビートルズ映画などのオマージュ・ショットをさりげなく挿入しつつ、短い時間内でキャラそれぞれの心情をリアルに抽出していく手腕は素晴らしいものがあり、対するレコード会社など大人たちの描出はTVシリーズ同様に定型的ではあるものの、それゆえに少女たちの繊細さが引き立つことにもなっていると思う。

 一見、他のアイドル・アニメ作品群に比べると地味な印象を持たれがちではあるが、やや誇張された芸能界の諸所の描写の中で、少女たちのピュアな想いは涙ぐましいまでに引き立つ。

 こういったものは、実写だと意外に滑稽に映えて失敗しがちではあろうし、要はアニメーションというメディアだからこそ描出可能な感動なのだとも思う。

 いずれにせよ、ファンが虚構と現実のWUGの双方を温かく応援していくことでシリーズが成り立つという点でも、TVよりむしろ銀幕で接するほうが臨場感が増して効果的な気もしないではない。

 また、それは山本監督の資質とも呼応しているようにも思える。

 ……などなど書きつらねていくうちに、もう9月25日の公開が待ちきれなくて仕方がなく、今や禁断症状が起きかねない勢いである。

 どうやら先に一度見てしまったことで、すっかりWUGロス状態が再燃してしまったようだ……。
(文/増當竜也)

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