Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第19回

少女マンガなのに恋愛という概念がないのか……!? 『動物のお医者さん』が与えてくれる安心感

 また、物語に常に登場する動物たちとの付き合いも、動物マンガの中ではかなり淡白である。

 主人公は、シベリアンハスキーのチョビ以外にも、三毛猫のミケ、ニワトリのヒヨちゃん、スナネズミの群れを飼っている。どの動物もほとんどデフォルメがなく、とてもリアルに描かれている。
 
 感情表現は、手書きの明朝体でセリフが書かれることが多いが、ペットを飼ったことがある人なら「ああ、あるある」と、思わずニヤついてしまうようなものが多い。獣医師を目指すマンガなら当然描かれるだろうと思う、動物と死別してしまうような悲しい事件は起こらない(チョビが雷に驚いて逃げてしまい戻ってこれなくなったエピソードが、おそらく最大の事件)。とても安心して読んでいられるのだ。

 こう書くと、とても冷たい世界と思うかもしれないが、決してそうではない。本当に、とても魅力的な世界なのである。現実世界では、恋愛関係だの親子関係だの友情だの……愛憎がぐちゃぐちゃしてとても大変だ。ペットを飼っても、懐くとは限らないし、糞は臭いし、病気になって死んだりもする。人生は大変なのである。

『動物のお医者さん』は、そこら辺がとても薄く描かれているので、現実に疲れた時に読むと、なんだかとても安心する。基本的に1話完結なので、寝る前に適当に開いてパラパラと何話か読んでいるうちに、眠くなって寝てしまう……というのが僕の生活の一部になっていた。そして今回、Kindle版を購入したことで、旅先でも簡単にパラパラ読むことができるようになった。文明の力に感謝である。

 そうそう、『動物のお医者さん』の印象的なエピソードで、主人公たちがモモンガを保護する話がある。とても好きな話だったのだが、まさか20年後に自分で飼うことになるとは思わなかった(ただし、モモンガとフクロモモンガは完全に別系統。フクロモモンガは、有袋類。つまりカンガルーの仲間)。主人公たちがモモンガにおしっこをかけられて往生する話なのだが、うちのフクロモモンガも肩に飛び乗ると決まって、首筋でジャーっとおしっこをする。生暖かい液体が背中に、ダラダラと入っていく。

 シャワーを浴びながら「あのエピソードは本当だったんだ」と、痛感するばかりである。

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/

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