Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第18回

なんで●●なのかまったくわからずじまい!? 伝説のマンガ『聖マッスル』が伝説たるゆえんとは?

 この大暴投っぷりを読んで思い出したのは、僕が中1の頃に始まった巻来功士の『メタルK』だ。『ゴッドサイダー』『ミキストリ -太陽の死神-』など独特な世界観を持つマンガを描く作者だが、中でも『メタルK』の主人公がすさまじかった。
 
 見た目はうら若き少女なのだが、興奮すると身体に熱を持ち、皮膚がドロドロに溶けてロボットの骨格があらわになる。しかも、その溶けた皮膚は硫酸で、それで敵を溶かしてしまう。

 いやあ、少年誌の主人公がドロドロに溶けてはいかんでしょう……と今なら思うけど、当時、企画会議の時は

「これはいけるぜ!!」

と思っていたのかもしれない。まさに大暴投。『メタルK』は「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載されていたものの、当然人気はなかっただろう。途中で気がついたのか、徐々に身体が溶けるのをやめたり、ヒーローを出したりと試行錯誤したものの、時すでに遅し。結局1巻で連載は終了してしまった。

『聖マッスル』も、3大少年マンガ雑誌のひとつ、「少年マガジン」(講談社)の連載である。

「少年マガジン」は70年代から劇画路線をとっていたが、それにしても異色の作品だった。人気を獲得するためにとった作戦は、なんとか普通のマンガに修正していく作業である。

『聖マッスル』の一番の特徴は全裸であり、第1章に至ってた、主人公含め全員全裸である。その後、主人公以外は服を着るようになり、最終的には主人公も服を着るようになる。

 こうなるともう、普通のマンガである。

 伝説的なスタートをきったマンガは、普通のマンガに戻ろうとして戻りきれずに打ち切りになってしまったのである。

 そんなこともあってか、『聖マッスル』を読んだ感想は、想像していたとんでもなくシュールなマンガではなく、意外に少年マンガしてるな……というものだった。主人公は筋肉もりもりの素っ裸である以外は、いたって普通の好青年。正義を愛し、人を愛している。弱者を助け、悪い権力者を倒す。

 闘技場が開かれている街では、巨人王というライバルとも出会う。人口抑制のため体力がない人間は死んでいく死のマラソン、黒犬を使い世界征服を狙う黒の帝国、などワクワクする話も多い。ただ戦闘シーンは、殴る、蹴る、投げる……と、ちと攻防が単純だと感じたけど。

 最強に強い男が旅をしていくという展開は、『北斗の拳』に似ている。『聖マッスル』の後半には巨人王の馬というのが出てくるが、この話も『北斗の拳』のラオウの愛馬黒王号のエピソードにも少しだけ似ていた。『高校鉄拳伝タフ』の猿渡哲也が描く『力王』も似たような雰囲気があったと思う。どちらもとてもリアルな絵で、かつ戦闘シーンがとても臨場感高く描かれていた。そしてそこが人気の要だった。

 そういう意味では、『聖マッスル』はとても惜しい作品だったと言えるかもしれない。設定や展開、描写内容が少し変わっていただけで、超人気作になっていた可能性もある。

 しかし、そうならなかったからこそ、伝説の作品になったとも言える。

 結局、打ち切りになったこの作品では、最初に提示された、記憶喪失の主人公は誰か? という謎は解明しない。なぜ全裸なのかも全然分からない。ほんのり見えていた敵、『黒の帝国』も結局どんな存在なのか全然描かれなかった。そもそも作品の舞台が未来なのか過去なのか、アジアなのかヨーロッパなのかもわからないし。

 分からないことだらけの作品だけど、でもそれでよいのだ。この作品は伝説的な作品なんだから。

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/

聖マッスル

聖マッスル

すごい肉体美だけど……

なんで●●なのかまったくわからずじまい!? 伝説のマンガ『聖マッスル』が伝説たるゆえんとは?のページです。おたぽるは、人気連載漫画エロマンガ作品レビュー連載の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

PICK UP ギャラリー
写真new
写真
写真
写真
写真
写真

ギャラリー一覧

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!