ネットで話題の福本伸行の政府広報マンガで、なぜ主人公が悲惨な末路をたどったのか?

『銀と金』『アカギ』『賭博黙示録カイジ』シリーズなどで知られるマンガ家・福本伸行が、政府の薬物対策広報キャンペーンで『合法といって売られている薬物の、本当の怖さを知っていますか?』という短編マンガを発表した。

 物語は、ある青年が合法ハーブを服用し、悲惨な末路をたどるというもの。「ざわざわ‥‥」「ぐにゃあと顔が歪む表現」など、おなじみの福本節を駆使しながら合法ハーブの危険性を訴えており、ネット上でも素晴らしい人選と話題になっている。

 表現と作品イメージから内容以上のメッセージ性を得ているのが大きいが、本作が面白いのは「福本作品」として見てもある程度成立していることだ。要するに、単に絵を描いているのが福本伸行であるというだけでなく、そのほかの福本作品と並べてみても違和感が少ない。

 それは、この短編が福本作品における人間観を踏襲しているからだ。

 人間観というと大げさになってしまうが、福本作品における人間はおおざっぱに3つの階層に分けられる。その分かれ目となっているのは「知」という基準だ。

 この分類で最下層にいるのは大衆である。モブキャラクターといってもいいが、彼らは無知であることによって搾取され、悲劇に陥っていく。そして、小知恵をつけて搾取するのが、その上の階層にいる悪役たちだ。そして、アカギのように作品の主人公となる最上位のキャラクターは、「知っていて、かつ狂気の域に入りうる人間」となる。

『合法といって売られている薬物の、本当の怖さを知っていますか?』はこの世界観を忠実に守っている。楽天的に合法ハーブに手を出している主人公の青年は大衆であり、それゆえに悲劇の最後を迎える。もう少しいえば、流されて一緒に合法ハーブに手を出した青年の彼女(=青年以上に無知)は、わずかではあるが、彼よりも先に体に異常を来している。

 一方で「知っていながら合法ハーブを売る」店側は、必要以上に悪の黒幕感を出していない(もちろん気持ちの悪い笑顔を強調されたりはしているが)。本作における「悪」は、「騙す店」ではなく、「本当のことを知らずに手を出す大衆の無知」なのだ。だから、この作品で悲惨な末路をたどり、「悪」として描かれるのは主人公の青年たちだけで、店主ではないというわけだ。

 こうした世界観の一貫性があることによって、本作は単なる広報マンガの域を出て、「福本作品」として成立しているといえるだろう。
(文/小林聖)

■『合法といって売られている薬物の、本当の怖さを知っていますか?』
http://www.gov-online.go.jp/tokusyu/drug/manga/index.html

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