『もらとりあむタマ子』公開記念インタビュー

【対談】山下敦弘×高橋栄樹 戸惑いながら誰もが見つめずにいられない、“前田敦子”という特異点

■女優・前田敦子の将来とは

──お二人のお話を聞いて、前田さんは極端に自意識が弱い人なのかな、と想像しました。

山下 自意識とか自我がないように見えるんですよ。俺や黒沢清さんが好きなのは、たぶんそういうところなんだと思います。黒沢さんは、あっちゃんのことをかなり気に入ってるみたいですよ。俺が、東京ドームのAKBコンサートに行ったとき、黒沢さんも実はいたらしいし(笑)。

高橋 その黒沢さんが観たかった(笑)。

山下 逆に、黒沢さんは、現場で「このセリフは、なんで言わなきゃいけないんですか?」とか、「このセリフを言う意味はなんですか?」と聞かれるのはあまり好きじゃないと思うんですが、あっちゃんは絶対にそういうことがないですから。

高橋 自意識というか、自己顕示欲がないんでしょうね。芸能界でなにか頑張っていこうとすると、自己顕示欲が強いほうが健全なんですけど、それがあまりない人は珍しいですよね。

山下 だから、嫉妬されやすいかもしれないですね。「私がこんなに頑張ってるのに、あっちゃんは……」って。もちろん特殊な10代を過ごしてきた結果、そうなったのでしょうけど。

高橋 アイドル出身としても珍しいと思いますよ。AKB時代、前田さんは途中で心をガードする雰囲気になった瞬間があったんですよ。日々あまりにも多忙すぎた反動なのか、どこかで心の中の時間を止めちゃったみたいな瞬間。それからまた人間的に成長して、AKBを卒業したという感じがしました。

山下 俺もひとりの女の子について、こんなに考えたり喋ったりすることはなかったんですけど、考えざるを得ない存在なんです。あっちゃんと映画撮ったり、映画祭に行ったりすると、なんでこの人はこうなったんだろうって考えるんですよ。すごく不思議というか、考えさせられてしまう魅力があるんです。

──今後、前田さんにどんな女優さんになってほしいと思いますか?

高橋 親心的な立場でいうと、周囲に年上がいっぱいいて、そういう人たちが(僕もその一人ですが)入れ替わり立ち代わりやってきて、反射神経で返すという人生があまりにも長かったですから、逆にじっくり考えたり、じっくり何かと向き合ったりする時間がいっぱいあるといいですね。本来は、そういうタイプの人だと思いますから。あるいは、自分と歳の近い人達とくつろぎながら一緒にものづくりをしていくことが大切なんじゃないかと思います。

山下 AKBを卒業して、いろんな活動をしていく中で、どんどん変わっていくでしょうね。だから、もし俺がまたあっちゃんと映画を創るときは、『苦役列車』や『タマ子』とは違うことをやらなければいけないのだけど、たぶんそれはそのときの前田敦子に合わせたほうがいいと思います。この年頃の女優さんは、恋愛を経験するとまた変わるし、そのときにそれを取り込んでいくくらいのことをすると、面白いんじゃないかな。

──彼女はどう変わるんでしょうね。

山下 それはわかんないですけど、変わらなかったら『タマ子2』を撮りますよ(笑)。

高橋 寅さんみたいにずっと(笑)。

山下 最後はおばあさんになってて、それでも父親にメシ作らせてたりとか(笑)。
(構成/松谷創一郎)

1312_mtamako_poster.jpg(C)2013『もらとりあむタマ子』製作委員会

■『もらとりあむタマ子』
監督/山下敦弘 脚本/向井康介
主題歌/星野源 出演/前田敦子、康すおん、富田靖子ほか
配給/ビターズ・エンド
11月23日より新宿武蔵野館ほかにて全国公開中
http://www.bitters.co.jp/tamako/


1312_mtamako_bamen1.jpg(C)2013『もらとりあむタマ子』製作委員会

東京の大学卒業後、地元・甲府の実家に戻り就職もせずにぐうたら暮らすタマ子(前田)。父と2人暮らしながら、家事もしなければ家業のスポーツ店の手伝いもせず、日がな一日マンガを読んだりゲームをしたり、お菓子を食べたりしているだけのまさに“モラトリアム”を送る彼女とその周囲に起きる少しずつの変化が、秋から夏へと一巡りする季節の中で描かれる。


■山下敦弘(やました・のぶひろ)
1976年、愛知県生まれ。大阪芸術大学映像学科の卒業制作として完成させた初長編作『どんてん生活』でデビュー。03年『リアリズムの宿』、05年『リンダリンダリンダ』で一躍脚光を浴び、07年『天然コケッコー』で第32回報知映画賞・最優秀監督賞を史上最年少で受賞した。近年の作品に『マイ・バック・ページ』(11年)、『苦役列車』(12年)。

■高橋栄樹(たかはし・えいき)
1965年、岩手県生まれ。大学生時代に第2回ビデオテレビジョンフェスティバルでグランプリを受賞。凸版印刷入社後、MVを中心に映像ディレクターとして活躍する。THE YELLOW MONKEYのPVを数多く手がけ、彼らの主演映画『trancemission』(99年)で映画監督としてデビューを果たす。07年に「軽蔑していた愛情」で初めてAKB48のMVを撮り、以降彼女たちの代表曲を多数撮っている。最新作は、THE YELLOW MONKEYのドキュメンタリー『パンドラ ザ・イエロー・モンキー PUNCH DRUNKARD TOUR THE MOVIE』(12月4日DVD&Blu-ray発売予定)。

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