主演・八坂沙織の女優としての完成度の高さ! 前作より深みを増した『魔銃ドナークロニクル』ゲネプロレポート

 9月28日(水)からアリスインプロジェクトの舞台『魔銃ドナークロニクル』の上演がスタートしている。初日の公演を前にはゲネプロが行われ、メディアにも公開された。

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『魔銃ドナークロニクル』は、アリスインプロジェクトの2016年秋公演として上演が決定したもの。本作は、昨年の6月に東京で上演され熱狂的な支持を得た作品で、全16公演のチケットが完全ソールドアウトになった。初演と同じく、まつだ壱岱氏(演出)&細川博司氏(脚本)のコンビによる殺陣とハイスピードなガンバトルが繰り広げられるアクション作品。女性キャストオンリーの総勢32名の華やかな座組となる。不死身の吸血鬼バイツを倒すため、己の血液を銃に込めて撃つ厚生省異端審問官「神酒(みき)」と、優秀な人類を同族化し千年王国設立の理想を掲げる吸血鬼「彼岸子(かのこ)」。それぞれの思いをかけて戦うアクションストーリーとなっている。

 ゲネプロを観て、まず思い出したのが、演出のまつだ氏が記者発表会で口にした「基本的なストーリーは変わらず、深みを増した」という一言。シスター・ベルデナットという新しい登場人物の存在もあり、またそれぞれの関係性も強く描かれていて人間ドラマとしての見応えが増したように感じた。もちろん、殺陣や格闘技経験者が座組に加わることでアクションストーリーとしてのパワーアップも図られている。

160930_majyu_2.jpg御船彼岸子役の八坂沙織(右)。

 主演、御船彼岸子(みふねかなこ)役の八坂沙織の演技を観るのは初めてだったのだが、正直ここまでの演技を観ることが出来ると思っていなかったことを、心からお詫び申しあげたい。筆者のイメージは、グループアイドル時代の八坂のイメージでしかなく、女優としての完成度の高さにただただ感心するばかりだった。細かい批評は避けるが、発声や表情のつくりかた、立ち振る舞いを含めて、美しいという言葉がしっくりくる印象を受けた。また、日本への入国シーンで見せたコミカルな台詞の言い回し、「お友だち」に接する際の柔らかなイメージなど、場面毎に変化に富んだ表現ができる女優ということが最後まで伝わってきた。さらに、この衣装を身にまとってのアクションは相当な重労働に思えるが、キビキビとした動きもまた見どころに感じた。ゲネプロ終了後の挨拶では、「みんなの心が動くお芝居になればと思っています。みんなで一生懸命がんばりますのでよろしくお願いいたします」と語っていた。

160930_majyu_3.jpgハイネ・アドラー役の橋本耀(奥)と浅倉神酒役の高橋明日香(手前)。

 ハイネ・アドラー役の橋本耀は、「舞台経験が少ない」と自ら言うものの、それを感じさせない演技を見せた。バイツ(吸血鬼)の中でも「貴族種」と呼ばれるエリート層に属するハイネ・アドラーは言葉づかいも独特で、またその存在ゆえ「上から目線」の振る舞いをするのだが、役にハマった演技で、特に朝倉神酒を追い詰める際のサディスティックな雰囲気が印象に残った。ゲネプロ終了後に記者と話す際に見せた橋本本人の柔らかなイメージとのギャップが面白い。自身2作目の舞台とのことだが、今後の活躍が大いに期待される。橋本は「ゲネプロでも緊張しましたが、みんなでやってきたことを精いっぱい出せるよう頑張ります」と意気込みを語っていた。

160930_majyu_4.jpgコートニー役の大塚香奈子。

「恐ろしく、強く、美しいコートニー」と言えばいいのだろうか。大塚香奈子が演じるコートニーには、圧倒された。バチカンから送られたバイツ(吸血鬼)を退治するエージェント。バイツをせん滅するためならば手段を選ばない冷酷さ、そして強さをみせる。ダンス、アクロバットは、殺陣の素養がある大塚ならではの演技で、特に後半さらに覚醒するコートニーには、まったく手が付けられない恐ろしさがあった。いったいどれだけのバイツを倒して、返り血を浴びてきたのだろう。普段は役の過去をあまり考えないのだが、今回はその背景を想像せざるを得ないほど、迫力のある芝居だった。大塚は「音と映像と迫力のあるアクションがあるので、自信を持って、怪我なく最後まで突っ走りたいと思います」と話していた。

160930_majyu_5.jpg坂上桜子役の舞川みやこ(左)。

 舞川みやこが演じる坂上桜子は、バイツの千年王国の理想を実現しようと試みる御船彼岸子が求めてやまない女優の役。アクションシーンの多い本作の中で、数少ない「民間人」の役柄。ストーリーの中で桜子の存在はある意味でヒロイン役で、バイツの拡散を阻止せんとする厚生労働省異端審問課にとっては、保護すべき対象となる。守られる立場にありつつも女優として、役の完成にこだわり、苦悩する姿を見せる。それゆえに自ら決断する意志を持った強い女性でもある。また、マネージャーとして桜子を支える姉との関係についても、複雑なものがあり、その辺りをしっかりと演じきっている舞川の実力については確かなものがある。舞川は「キャスト全員、全力を尽くして、この舞台にかけてきたと思います。最後まで誰一人欠けることなく、『魔銃ドナークロニクル』をお届け出来たらと思います」と語っていた。

160930_majyu_6.jpg劇中でバイオリンの演奏をするイリア役のMIZ。

 イリア役のMIZ。普段、J-POPなどのステージで活躍しているバイオリニストである。もちろん彼女の奏でるバイオリンの響きは素晴らしい。イリアは、その音を武器にするのだが、相手を攻撃するというよりむしろ、味方を守るために奏でる。決して前面に出てくる存在ではないのだが、彼女が登場するたびに惹きつけられる思いがした。『魔銃ドナー』が単なるアクション劇にとどまらないのは、人間ドラマの要素とともに、質の良い音楽の存在があるからのように思う。

160930_majyu_7.jpg浅倉神酒役の高橋明日香。

 浅倉神酒役の高橋明日香は、実に幅の広い役柄を演じられる稀有な存在だと改めて感じた。本作の中でも、可愛らしさ、カッコ良さ、情け深さ、人間の持つさまざまな要素をしっかりと伝えてくれた。特に昨年の『魔銃ドナー』よりさらに深く描かれた妹・玉串との関係性や自己犠牲をいとわない姿勢に思わず涙してしまいそうになるシーンがいくつもあった。一見無謀にも思える神酒の行動には、きちんとした理由がある。そして、「勧善懲悪」という一歩間違えば独善的になり得る「正義」を彼女は持たない。人間らしい人間として描かれた神酒を演じる高橋の演技の深さに改めて感心した。高橋は「去年と同じ朝倉神酒役で帰ってこれてうれしい気持ちでいっぱいです。最後までケガなく駆け抜けたいと思います」と語っていた。

160930_majyu_8.jpg我妻レイカ役の今出舞(左)と浅倉神酒役の高橋明日香。

 また、神酒をライバル視しているドナーの我妻レイカ(今出舞)と神酒との関わりも本作で描かれる要素として注目してほしいところ。多額の報酬を目当てにドナーを続けている我妻だが、冷酷ということもなく、むしろチームを率いる立場ゆえ神酒に苦言を呈す。そしていざという時には、その強さを味方を守るために惜しみなく発揮する。神酒に対しては、ある意味で突き放しつつ放っておけない。一見ドライに見えて情に厚い。あまり本人を良く知らずに書くと、また叱られそうだが、今出本人と我妻の役柄が重なって見えた場面がいくつかあったとだけ書き残しておこうと思う。今出は「初演の時より劇場もバージョンアップして広くなっているので、もっとより多くの方に『魔銃ドナー』を楽しんでいただけたらなと思っています」と話していた。

160930_majyu_9.jpgシスター・ベルデナッド役の中嶋春陽。

 先日の記者発表会で八坂沙織が「女性としての美しさを見てほしい」と語っていたが、とても美しく感じたのがシスター・ベルデナッド役の中嶋春陽。バイツを狩るクルセイダ―、コートニーらの上司にあたる役柄。昨年の『魔銃ドナー』では存在しなかった新しい役なのだが、シスターという一見清廉な立場にありつつも、目的のために手段を選ばない冷たさを持つ。そのある意味で冷静な役を演じたのがまだ17歳の高校生だと知ったら、驚くことだろう。声や話し方に落ち着きがあり、実に大人っぽい。そして何より歩き方をはじめ所作が美しい。もう少し長い時間眺めていたい、素直にそう思った。

 さて、長々とお付き合いいただいたところで、舞台をこれから観る方には、差し障りもあるかと思うのでこの辺りで締めておきたい。ここまであまり触れなかったが、もちろんガンアクション、殺陣ももちろん本作の重要な要素。今回は総合格闘技「Team DATE」から、華DATE(月組)と華蓮DATE(星組)がキャストに加わり、演技とは言えど本格的なアクションも見ることが出来る。また、今回は六行会ホールという大きなステージで、広がりのある動きが許される。オープニングのダンスも実に壮観。それぞれの楽しみ方があって当然の生の芝居、演出の素晴らしさを見るも良し、お目当ての役者を注目して見るも良し、人間ドラマに涙するも良し。芸術の秋の始まりに、この作品を観るのに、いささかの躊躇も必要ない。『魔銃ドナークロニクル』、素晴らしい作品だと太鼓判を押したい。
(取材・撮影/矢口 明)

160930_majyu_10.jpgキャスト集合写真。シングルキャストと月組。
160930_majyu_11.jpgアリスインアリス&フレンズの花梨(左)。
160930_majyu_12.jpg容赦なくブッタ斬るコートニー。彼女を止められるものは居るのか。
160930_majyu_13.jpgストーリーテラーとしての役割もになう朝倉玉串役の伊藤彩沙。
160930_majyu_14.jpg次々と展開される、アクションシーンは見どころ。

アリスインプロジェクト2016年秋公演
舞台『魔銃ドナークロニクル』

日程:2016年9月28日(水)~ 10月2日(日)※全8公演
劇場:品川:六行会ホール(248席)
東京都品川区北品川2-32-3
【公式サイト】
http://alicein.info/

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