『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』出版──現場にいたアイドルヲタクの雑感

1609_huyu01.jpg『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』(シンコーミュージック・エンタテインメント)より

 人は、自分の経験しなかったことを想像するとき、得てして大げさに考えてしまいがちだ。

 例えば「バブル景気」にしても、日本中の誰もがお金を持っていて、好きなものを何でも買えたようなイメージを持たれることがあるが、そんなことはない。

 確かに、私も新入社員の頃、バブル景気を経験し、「移動は常にタクシーだった」「残業代はすべて申告してよかった」というようなことはあったが、それでも無駄遣いをしてお金のない時には、100均のラーメンをすすって食いつないでいたこともある。

 ちょうど同じようなことが「アイドル冬の時代」にも言える。

 その時代を知らない若い世代(もしくは、当時アイドルに興味がなかった中高年)のアイドルファンは、当時について「可愛いアイドルがいなかったのでは?」「魅力のあるアイドルソングがなかったのでは?」と思っているかもしれない。

 だが、決してそんなことはない。アイドル冬の時代にも魅力的なアイドルはいたし、クオリティの高い楽曲もたくさんあった。そして、何よりも、あの時代のアイドルファンも、それなに楽しかったのである。

 9月8日、シンコーミュージック・エンタテインメントから『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』(著:斎藤貴志)という本が出版された。今まであまり光の当てられてこなかった「アイドル冬の時代」を検証し、その時代の真実を書き残そうという意欲作である。

 今回は、この本の内容を紹介するとともに、当時現場にいた一アイドルヲタクであった私の雑感を書いてみようと思う。

 まず、前提となる「アイドル冬の時代」の定義である。

 この本では「おニャン子クラブ以降、モーニング娘。以前の10年間」と定義している。具体的にいうと1988年から98年まで、世間的にはバブル景気の始まりから、バブルの崩壊を経て、不景気へと突入していく頃までである。

 この定義について異論はない。個人的にはSPEEDがブレイクし、広末涼子(※デビューは95年)が登場した96年頃には「早春」ぐらいにはなっていたと思うが、やはり今のようなグループアイドルが出てくるには、モーニング娘。を待たなければいけないだろう。

 この本で、大きな割合を占めているのが、アイドル冬の時代の当事者、つまり当時活動していたアイドルたちへのインタビューだ。

 答えているのは、高橋由美子、相田翔子(Wink)、田中律子、はねだえりか(CoCo)、宍戸留美、下川みくに(チェキッ娘)、森下純菜の7人。いずれも、冬の時代において重要な意味合いを持つアイドルたちの人選である。

 例えば、高橋由美子は、この時代、あくまでも従来型のアイドル歌手を貫いた人だし、Winkは数少ないこの時代の成功例である。

 CoCoやチェキッ娘は、その前の時代の『おニャン子クラブ』のフォロワーでありながら、現代に続くアイドルグループの遺伝子を繋いだ人たちだし、宍戸留美は初めて「フリーランス」として活動をしたアイドルである。

 インタビューでは、当時の辛かったことや嫌だったことなどを話している人も多い。

 当然、アイドル活動自体が苦しい時代であったことは確かだし、本のタイトルにも「光と影」とあるように、よかったことだけを掘り下げるのでは意味がないのかもしれない。

 しかし、正直なところを言えば、当時彼女たちを見て心をときめかせていた者からすると、あえて聞きたくなかったような話もちらほら出てくる。

 あの頃、本当にピュアな気持ちでファンをやっていて、その夢を壊したくない人は、注意して読んだ方がいいと思う。

 ちなみに、あとがきによれば、オファーしたものの断られた人たちもいたとのこと。確かにこの面子であれば、あの人にもいて欲しかったとか、あのグループの内情も聞いてみたかった、というような感想は出てくる。

 しかし、先に挙げた「当時のファンの思いを大切にしたい」という気持ちから、あえてインタビューに応じないというのも、ひとつの正しい選択肢であるとは思う。

 本の後半では、冬の時代の年表や主だったアイドルの紹介を通して、その時代のアイドル界で何が起こっていたかを分析し、いくつかの結論を導き出している。

 1980年代後半、人々の好みは多様化し、家族の誰もが見られるような歌番組が減少した。

 アイドルにおいても、これまでのようないわゆる「アイドルポップス」から、ダンスミュージックや、打ち込みを多用した小室サウンドのようなものまで広がっていった。

 そんな状況の中、それぞれのアイドルとその運営は、あの手この手と色々な策を考え、試さざるを得なくなった。

 そして、それらの淘汰と洗練を繰り返し、モーニング娘。のヒットが生まれ、その後に続くアイドル繁栄時代へとつながっていくのだ。

 つまり、冬の時代だからこそ、人々は苦しみ、考え抜き、アイデアを出し、それを実行した。

 その多くは、大きく花開くことなく消えていったかもしれない。しかし、わずかではあっても、その思いや作戦は脈々と受け継がれ、やがて大きな花を咲かせる。

 アイドルという象徴的な事象で語られてはいるが、これは、何においても同じことだろう。「今が辛い」と嘆いている人は、必死でいろいろなことを想像するといい。それは、不自由なく安穏と暮らしている人にはできないことだろうから。

 辛かったり、苦しかったり、逆境であったりする時の方が人は様々なことを考えうる。そしてそれがやがて実を結ぶための「種」となるのだ。この本からは、そんなことが学び取れるような気がする。

 検証記事の後には、独断と偏見によるアイドル名曲の紹介がなされている。当時、アイドルソングを聴きまくっていた身としては、ここは楽しい。「麻田華子で『さよなら、DANCE』(ビクター)を持ってくるあたりは通だな」とか「姫乃樹リカなら『ときめいて』よりも『もっとHurry Up!』(ともにビクター)だろ!」とか、いくらでも突っ込みを入れながら読んでいられる。

 昔からのアイドルファンで集まったら、このページを肴に一晩飲み明かせそうなほどだ。

 そして、最後に載っているのが、あの時代のアイドルソングをカバーしている、現役アイドル、「さんみゅ~」と「ハコイリムスメ」メンバーのインタビューだ。

 私は両方ともライブを見たことがあるが、いずれも原曲を歌っているアイドルに対し、リスペクトを持って歌っているのが感じられた。今回のインタビューでは、その裏づけがとれた形だ。

 この本の執筆者の多くは、アイドル冬の時代を越えてきたライターや編集者たちだ。つまり、この本は、アイドル側の声を聞き、編集者たちが分析を行い、アイドルファンがそれを読むという構図で完成するのである。

 この先、またいつ冬の時代がくるかもしれない。

 しかし、恐れることはない。

 この本にあるように、思いと志があれば、いつか道は開けてくる。

 その時のために、今のアイドルをたくさん見ておこう、そして、学んで楽しんで、自分の中にたくさんの思い出を溜め込んでおこう。それはきっと、未来へつながる、心の糧となるはずだから。
(文=プレヤード)

アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影

アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影

もう20年ぐらい前にもなってしまうんですね…

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