【今月の不健全図書レビュー】出版社の看板に偽りアリ(笑)人格否定過ぎるBLイイモ『イノセント』

——東京都をはじめ、地方自治体の「青少年・治安対策本部」では、毎月“不健全図書”を挙げ、自主規制団体らと共に審議を行っている。この審議結果は毎回公表されるものの、審査過程での自主規制団体の声が顧みられることはほぼない。エロにせよ何にせよ、どこか尖った作品を大の大人が色々な立場から評価するという、そんな貴重な意見が無視されるなんてもったいない! このコーナーでは、“不健全図書”に指定されたマンガなどを自主規制団体の声と共に紹介していきたい。つまり、クラウド・ファンディング(群衆による資金調達)ならぬ“不健全図書”クラウド・レビュー(群衆による批評)、はじまり、はじまり〜!

【今月の指定図書】

1504_inosent『イノセント』(イイモ/ジュリアンパブリッシング)

 まずは報告。本来は毎月半ばに更新される東京都の不健全図書関連の会議資料。それが3月はまったく更新されず。いやいや、サボっていたわけではなさそうです。

 昨年来、東京都青少年・治安対策本部のサイトはFirefoxでは表示されなくなるとか諸々問題を抱えていたのですが、改装されてとても見やすくなりました。その引っ越し作業のせいで遅れていたそうです。

 さて、3月の指定は1冊。イイモ『イノセント』(ジュリアンパブリッシング)です。ジャンルはBL。少ない指定の中でBLオンリーということは、このジャンルが相当、東京都に目を付けられていることを示しています。そのあたりの事情は、発売中の雑誌「創」5・6月号にも書きましたので、ご参照を。

 まず、このジュリアンパブリッシングという出版社は、初めて聞く会社名。サイトを見ますと、BLからラノベまでさまざま手がけている会社のようです。サイトでもっとも気になったのはヘッダーのところに「LOVE&PEACEな出版社」と記しているところ。なるほど、LOVE&PEACEな出版事業の一環がBLなのかなあと思ったら、ロバート・ジョンソンの伝記も翻訳出版しているじゃありませんか。いやいや、十字路で悪魔に魂を売った男は全然、LOVE&PEACEじゃないだろ……(ロバート・ジョンソンを知らない人は、平本アキラの『俺と悪魔のブルーズ』を読んでください)。

 まあ、いろいろと考えさせられるところもありますが、冷静に指定理由を分析していくことにしましょう。

(以下、別記のない限り、【】内は「自主規制団体からの聴き取り結果」より引用)

 この単行本は、表題作をはじめ主人公がヤラれまくるエロ重視の作品です。輪姦も多めで肉便器的展開を中心としたBLであります。

 そこに描かれた描写に対して、自主規制団体からの聞き取りでは、指定該当が11、保留が5。なんと、指定非該当がゼロという珍しい結果になっております。

 理由は明白。いろいろと挑戦しすぎです。なにせ表題作では、主人公が犯されながら「警察に……」というのですが、体育教師は「警察がなんだって」と不適に笑いながらレイプを続けます。いやいや、この国家権力に各種団体の皆さんは驚いたのではないでしょうか。

 その後の収録作もレイプの連続ですが、とにかく強烈。「Restrain」では電車内集団痴漢+レイプを描くのですが「助けを呼ぶ? 男への痴漢なんて信じてもらえるのか……?」と、これまた強烈なセリフを投入します。どんなに抵抗したところで主人公が欲望むき出しの男たちに肉便器にされるのがフォーマットなのです。

 この尊厳を踏みにじる興奮というスタイル対する指定該当意見は、ほとんど嫌悪感のみ。【人格否定や強姦的な描写が全編にわたっており、見る価値のない作品】とまで批判されております。

 また【全編にわたり、男子高校生や少年に対する強姦等であるので、厳密には強制わいせつか。一部は、強姦されるが、最終的には喜びを感じているシーンもあり、犯罪行為に対して肯定的とも受け取れる】意見にも、不快感を感じ取れます。加えて指定該当意見では【人格否定】という言葉が何度も登場するわけですが、人格否定なのは事実ですから否定のしようがありません。

 読むだけで不快感を感じる人も多いようですが、加えて問題になっているのが性器の修正。あまり性器をクローズアップして描くシーンはないのですが、けっこう甘い。男性向けなら自主規制マークつき単行本レベルの甘さなのです。ゆえにストーリーとは別に【総じて、男性器の消しが甘いので、指定やむなし】と修正を問題視して指定該当とする意見もあります。

 この作品、女のエロ本という本来の目的からすると完成度の高い作品といえます。ページのあらゆるコマが黒い欲望を歓喜させる濃厚さがあるからです。つまり作者は相当な才能の持ち主だといえるでしょう。でも、出版社は世に送り出す方法でミスったようです。

 いい加減、BLも自主規制マークあったほうが、自由度が高まって作者も読者も喜ぶんじゃないかという思いが強くなった一冊でした。
(文=昼間 たかし http://t-hiruma.jp/

【出典】東京都青少年健全育成審議会「自主規制団体からの聴き取り結果」より
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/pdf/09_singi/669/669siryou2.pdf

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