『ラストメンヘラー』誰もがメンヘラ?

 あの『オナニーマスター黒沢』の伊瀬勝良が原作を描く新たな物語は、やっぱり重かった。このたび単行本第1巻が発売になった『ラストメンヘラー』(漫画:天野しゅにんた/双葉社)は、ヒロインがメンヘラーなのだ。

 そのヒロイン・五十嵐すみれは、長い黒髪の美少女。ミステリアスな雰囲気を持った彼女の腕は、リストカットの疵痕がいっぱい……。完全にヤバい少女なのであるが、主人公・仲原要は、そんな彼女に惚れてしまった。

 そして、要がすみれに近づく手段として使ったのは、自分の古傷。ちょうどリストカットのような痕があることを生かして「僕もきみと同じふつうの人間じゃないんだ」と近寄ったのだ。

 そもそも、この前の段階で、すみれに惹かれた理由が、放課後の理科室で1人リストカットをしている姿に興奮したからなのである。もう2人して完全な共依存、いや変態になるのは当然だ。

 こうして2人は、誰にも内緒で放課後の理科室で裸になり抱き合ったりしているというわけ。でも、すみれの側には恋人という意識などない。途中、普通の恋人のようにデートをしたりもするのだけど、あくまで、すみれはメンヘラな自分の理解者を求めているだけ。対して要は、自分がすみれにとっての特別な存在になっていることに不安と歓びとを感じているという具合である。

 物語の中で描写される要の心情は、青春期に多くの人が体験したであろうメンヘラ女に惹かれてしまうストレートなもの。すなわち、自分なら彼女を理解してあげられるとか、自分だけが彼女を守ってあげるというヤツである。いやいや、ある程度人生経験を積んだ読者だったら、これは青春を棒に振るレベルのヤバさだと思うのではなかろうか。でも、要のすみれに対する想いは止まるところを知らない。

 対して、すみれはといえば、要と理科室での行為を繰り返しながらも、彷徨っている。ネットで知り合ったメンヘラ女と会い「悲劇のヒロイン」を演じようとする醜さにムカついたりもする。結局、いくら理解者が現れようとも満足せず彷徨し続けるメンヘラ女そのものの行動を繰り返しているのだ。まあ、それも当然。何せ、すみれはメンヘラ女としてはかなりハイレベル。家に帰れば母親が「片付けをしようとして」家具やら何やらを破壊しまくって横たわっている。そんな家庭なので、妹は家に寄りつかずに、夜遊びを繰り返しているのだ。そんな環境で暮らしていたら、正気でいるよりもメンヘラ女をずっと演じているほうが楽なんだろうな、と納得だ。

 そんな物語に深みを与えてくれるのは、2人を中心にクラスメイトたちも、どこか病んでいるのかと思うほどドロドロな人間関係を構築していること。要に惚れている女子は、すげえ重そうな感じで「五十嵐さんと付き合っているの?」と聞いてくるし、要の親友もすみれに惚れていることが発覚したりして、物語がさらに混迷を深めていくことを匂わせている。

 あらゆる登場人物が病みまくっていることに、恐れおののく本作。でも、思ったんだ。こんなドロドロに溶け合うような関係でつながっている登場人物たちは、羨ましいな……と。
(文=ピーラー・ホラ)

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