メインヒロインがメンヘラっぽい……。鏡遊『かませ系ヒロインルートの結末を俺は知らない 打ち切りの5秒前』

 鏡遊『かませ系ヒロインルートの結末を俺は知らない 打ち切りの5秒前』(スニーカー文庫)は、ご都合主義の展開にイラっときつつも、先が気になって読んでしまう作品だ。

 なにせ主人公の御門駿介は、読者がとても感情移入できそうもないキャラ設定だ。実家は名家で、本人はモテモテ。日々、女の子には告白されるし「気持ちを受け入れてもらえないなら尼になります」「あなたを殺して死ぬ」等々のぶっそうなメールも山ほど来る。あげく、思いついた手段は告白してきた女の子の身体を、いきなりまさぐったりしてビビらせて想いを断ち切らせること。鬼畜の所業ではあるが、それでも告白してくる女の子が絶えないのだから、どうなってるんだ!

 そんな彼の幼なじみである狗我香凜は、女子高生にして、プロのマンガ家。ラブコメ脳でラブコメしか描けないという欠点もあるが、父親は家電メーカーの社長で、母親は衆議院議員。なんでも入れりゃいいのかと作者を説教したくなるほど完璧すぎるキャラ設定なのです。

 でも、どんなにお金と地位と名誉があっても、ままならないのが恋の道である。それを教えてくれるのが、祖父の持ち物であるアパートを一棟丸々使って一人で暮らしていた駿介のところにやってきた転校生・歩沢ひびきだった。アパートの管理人として働くことになったというひびきは、対局的に不幸のオンパレード設定。天涯孤独の身の上に、住んでいた施設が潰れて、「高校生以上は自分で生きていけ」と追い出されたのだという……。

 そんな生まれ育ちに由来しているのだろうか。ひびきは、吐く言葉がすべてシニカルかつドライである。お約束なラッキースケベで駿介におっぱいを触られても「ぐるぐる思考が巡ってるみたいですが、そろそろ手を離しませんか?」と、冷静すぎるのである。冷静すぎるけど、抜群に可愛くてスタイルも最強なヒロイン。あらゆる告白を断ってきた鬼畜な野郎でも、悶々とすることはうけあいである。そんな燃えさかる炎に油を注ぐかのように、ひびきは「わたしはあなたを好きにならない」と宣告するのである。

 それを知って発憤したのは、駿介ではなく香凜であった。度を越えてシニカルで、3人で食卓を囲めば「もっとおっぱいを大きくしたら御門君もむしゃぶりついてくれるかもしれませんよ」などと無用な挑発を始める、ひびき。その果てに香凜は「私がかませ犬になる」と言い出すのである。

「かませ犬」とは、すなわちメインヒロインに対する隣に住んでる幼なじみとかの類い。要は主人公がメインヒロインと付き合う紆余曲折の中で、なんかの助けになるサブヒロインのことである。もっとも香凜も当然、本心で駿介ラブ。そのことはお互い知っている。でも、香凜は「駿介が誰かと付き合えば告白してくる子も減る」という。

 いやいや、すべての元凶はお前らが、さっさと付き合わないからじゃないか(この2人、遠い親戚設定なので18禁的な情念を抱く読者も多いだろう)!

 それに、その気もないのにシニカルに無用な挑発をしてくる、ひびきに比べるとまっすぐでいい娘ではないか。ともあれ、ひびきの度を超えたシニカルなセリフに、この娘、相当にヤバイタイプじゃないのか? と斜め目線が生じたあたりから、ようやく主人公に対する感情移入もできるようになった。

 暇なブルジョア子弟のお遊びの戯画か。あるいは、一種のサイコホラーか。読む人によって印象が随分と変わる作品である。
(文=ピーラー・ホラ)

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