江波光則『ボーパルバニー』ぜんぜんラノベじゃない、本気のピカレスク

 もはやライトノベルというジャンルは“たまたま出版しているレーベルがライトノベルのレーベルだった”あるいは“書店がライトノベルだと思って棚に並べた”そんな緩い枠になっていると思う。何しろ、読者層の下を中高生に設定して、文章を読みやすく書いていれば、なんでもライトノベルになってしまうのだから。

 今回紹介する江波光則『ボーパルバニー』(ガガガ文庫)は、ライトノベルの新たな世界の広がりを見せてくれた。この作品はライトノベルというジャンルで、圧倒的なピカレスクを展開しているのだ。

 表紙を見て思ったのは「なんかエロいことが起こる展開なのか」という予断。確かにエロい展開はある。けれども、それは決して重要なことではない。この作品世界には、善人などいない。すべてが悪党であり、血なまぐさい匂いに満ちた世界である。学園や異世界とは違う悪徳に満ちた青春が、ここにはあるのだ。

 物語の世界はリアルな現代。主人公の若者・怜たちのグループの一員である来霧が繁華街の裏道で首を切り落とされて殺されたところから始まる。その犯人はバニーガール。

 でも、物語は犯人の謎を追うミステリーにはならない。登場人物たちの一人称によって過去の出来事を交えながら、彼らのグループが襲撃される必然が明らかになっていくのだ。

 彼らが襲われる理由。それは、中国マフィアが本国へ送金する3億円もの金をかすめ取ったから。しかも、単に金を盗むわけではない。その過程で人も殺すし放火もする。でも、彼らには、尻尾をつかまれたしくじりを後悔すれども、反省することなどはない。あくまでも、善悪を超えた欲望のままに生き抜くのが、彼らにとっての正義なのだから。

 これまでガガガ文庫は、ライトノベルとは思えない残酷展開の作品を幾つも世に送り出してきたレーベルである。だが、この作品は度を超えてハードだ。グループの紅一点・燐華は、米軍人から色仕掛けで拳銃を手に入れ、人を撃つのにも躊躇がない。彼女の一人称では、銃を撃つことと性欲とが接続しているようなことまで語られる。そして、仲間との愛もクソもない、その場限りのメチャクチャなセックスも……。

 もう、どこをどうみても偶然ライトノベルで出版されただけ。本来だと早川書房だとか大衆文芸系の出版社でハードカバーで出版される作品としか思えない(実際、江波氏はハヤカワ文庫JA『我もまたアルカディアにあり』という作品も上梓しているし、ライトノベルという枠を既に突破しているようだ)。

 物語を通して、次第に読者は感じるだろう。ピカレスクという魅力を。悪党たちが欲望のままに刹那に生き急ぐこと。絶対に真似はしたくない美しさを。そうした魅力を、この作品は教えてくれるのである。

 この作品は、若年層のライトノベル読者に「世の中には、もっと面白い作品ジャンルが無限に存在する」そんなことを教えてくれるものだと感じた。

 なお、筆者は巻末に後書きもない思い切りのよさに感銘を受けた。これは、作品がすべてという作者の想いを示しているのだろう。
(文=是枝了以)

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