~私は如何にして心配するのを止めてYUIMETALを愛するようになったか~ 第6章

BABYMETALの“メタルレジスタンス”を追う―お辞儀の深さが世界を変える。

 私は自分の抱く夢を楽しむことに少なからず罪悪感を覚えていた。だが、彼女がBABYMETALの活動によって夢を叶えることでそれが解消された。客席で抱く“夢”がステージで抱く“夢”と同じものであってほしい。これで思う存分ウォール・オブ・デスができる。アリアナ・グランデさん、本当にありがとうございます。

 2015年度、水野由結は姿を隠した。「卒業したらBABYMETALが待っています」という卒業式での発言通り、YUIMETALのみの活動になり、今年はBABYMETALの活動に専念した。

『学院日誌』はさくら学院の卒業に伴い更新が途絶え、彼女が何を考え、何を想って活動しているのか。大好きなトマトを食べているのか、否か。それらを幾ら想像しても検索しても目に見えない。Twitterやブログなど自己発信の場がない分、ステージやインタビューで観る彼女の姿からそれを掴み取るしかない。その最たる場面は“お辞儀”。深々と頭を下ろし、また上げる。すると相手も深々と腰を折る。

 ここからBABYMETALの精神を垣間見たい。

■「その礼節が世界を変えるかも知れない」

 国内外のインタビュー映像で毎度のように繰り出される“お辞儀”は、ファンならずとも話題に上げてしまうくらい律儀なもの。その角度の深さは時折画面のフレームから外れ、カメラマンの瞬時の判断力が試される。目の前にいる大人は自分より半分以下の年齢の子どもたちの角度に、より深いお辞儀で返すしかない。

 今年6月にロンドンで行われたイギリスの音楽誌主催の「KERRANG! AWARDS」。世界中の名だたるビッグアーティストが集結する音楽界が注目する授賞式でBABYMETALは日本人初となる、独立心溢れるグループに贈られる“THE SPIRIT OF INDIPENDENCE AWARD”を受賞した。受賞の際、名前を呼ばれて席を立ったYUIMETALの行動に思わず声が出た。なんと、イスを直したのだ。

 うわあああ。いや、そこのあなた。何をバカなことを言ってんだと思うかも知れない。かつてここに呼ばれたアーティストの何人がイスを直したことがあるだろうか。その行動は決して驕ることなく気品に溢れ、幾ら奇抜な表現をしても両極端のバランス感覚で成り立つ。「DEATH!」を連発する一方で誠実なその姿勢が振り幅を作り、これこそ“独立心溢れる”証拠となる。こうした礼節に、BABYMETALの真髄が隠されている気がしてならない。

 YUIMETALがイスを直す映像を見てから、私の“メタルレジスンタンス”は思いもよらぬ行動に出た。生活のあらゆる場面でイスをきちんと直し、仕事で会う人会う人に深々とお辞儀をするように心がけた。16才の少女が腰を折って一礼するのだから大人の私もそれを見習わないと、と思って一礼するとボキッと鈍い音を立てて本当の意味で腰が折れる。と、話の腰を折ってしまったが、その誠実な姿勢の数々はかつて世界を席巻したビッグアーティストとは一線を画すものに思えた。

 私が10代の頃に憧れたアーティストの“伝説”といったら、やれホテルの室内を破壊するだの、宗教団体を敵に回すだの、やれドラッグ漬けでライブをするだの、ショットガンで自殺するだの。人間として決して尊敬できない類のものばかり。インタビューで兄弟同士激しく罵り合う者もいれば、殴り合いのケンカをする者もいる。破天荒がまるでビッグアーティストの代名詞で、それが当たり前のようになっていた。

 しかし、BABYMETALはそこに風穴を開けた。“お辞儀”という全く新しいスタイルを世界の音楽史に持ち込んだのだ。有名になればなるほど、そのアーティストの精神的なフォロワーは増えていく。今後BABYMETALに倣って、礼儀正しく紳士に振る舞う人が増えることは目に見えている。ロックミュージシャンに誤った憧れ方をしてドラッグ漬けになるより、YUIMETALに憧れてトマト漬けになる方がよほど健全なのは誰も否定できないだろう。

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