『闇金ウシジマくん』の作者が地下アイドルヲタクの“リアル”を描いたマンガ『アガペー』 アイドルライターが読むと…

――今、地下アイドルヲタクのリアルを描いたマンガ『アガペー』がネットで「リアルすぎる」と話題を集めている。そんな『アガペー』を、さまざまな地下アイドルのライブを見てきたアイドルライターが読んでみた。

『闇金ウシジマくん』の作者が地下アイドルヲタクの“リアル”を描く「ヤングマガジン」35周年記念大型読み切り企画「BULLET」公式サイトより。

 6月29日発売の「週刊ヤングマガジン」(講談社)31号に掲載されたマンガ『アガペー』が、地下アイドルヲタクの姿を赤裸々に描いた作品として話題になっています。作者は『闇金ウシジマくん』(小学館)の真鍋昌平氏。作中では、架空のアイドルグループ「HELLRING乙女パート」(ヘルパー)を取り巻く人間たちの、それぞれのドラマが描かれています。「ヘルパー」は実在のアイドルグループ「BELLRING少女ハート」(ベルハー)がモデルになっています(外部参照)。

 読み終えた感想を一言で言えば、「よく調べ上げて書いた作品だな」ということ。真鍋氏は『闇金ウシジマくん』を含む数々の作品で、日の当たらない人間の描写を得意としているだけに、今回のアイドルヲタク(ドルヲタ)を題材にした作品にも、その才能をいかんなく発揮していると言えるでしょう。

 まず、私が何者なのか、読者のみなさんはまったく興味ないでしょうが、お話したいと思います。私は、こうしてライターとして、時折アイドルのライブレポートなどを書いていますが、普段は、ミュージックビデオや舞台、ライブなどのカメラマンをしています。そして根本の部分はアイドルヲタクだと思います。文末が「思います」なのは、“ヲタク”としての自信がないからです。以前“KSDD(クソDD[誰でも大好き])モデル”として活躍中の日笠麗奈さんが、“ヲタク”と呼ばれることに違和感を感じているといった趣旨の発言をされていた気持ちがよくわかります。これはヲタクを卑下するものではなく、ヲタクと呼ばれるほど、アクセル踏み込めていない自分がそこにあるからなのかもしれません。

『アガペー』で描かれているアイドルヲタクの面々は、“人種”はさまざまながらヲタクとしての覚悟が出来ています。一切働かず、親の遺産を食いつぶしながらドルヲタを続ける「ひろたん」、サラリーマン生活をしながら(作品中では自らを“社畜”と表現)、会社の人間とは仕事以外に付き合いを持たず、アイドルに“認知”(顔や名前を覚えてもらうこと)されることを望んでやまない「ノリちん」、“繋がり厨”(アイドルと個人的なつながりを求めるヲタ)として“接触”(握手会やチェキ会)に命をかける「オカモト」。それぞれに虚勢を張り、金銭を投げ込み、“普通の人間”が考える“普通の生活”を捨てて生きる覚悟が出来ているのです。

 振り返って自分はどうなのか、アイドルに対して全身全霊で向き合っているのか、覚悟を決めているのか、そう考えると、そうでもないと、「ヲタクを名乗るには、おこがましい」とさえ思えてくるのです。前述の日笠麗奈さんの言葉を借りて言えば「アイドル好き」であってドルヲタ未満なのかも知れません。

 さて、作品に登場する人物で、ヲタク以外に気になるのが、ヘルパーのプロデューサーの中田です。私もかつてアイドルの運営の仕事をしていました。当初、映像制作の仕事を請け負ったつもりが、いつの間にか現場マネージャーとして働き、チェキ撮影や“ハガシ”(握手会でファンを剥がす作業)もやりました。過酷な労働環境に身体を壊し、一年と持ちませんでしたが。その過去から、運営側の感覚もわずかながらに理解しているつもりです。

 作中の中田は、アイドル運営の人間として一見冷たいようにも見えます。しかし、ヘルパーのメンバーである柿沢あやかに現実をさらし、目を覚まさせることのできる優秀なプロデューサーだと思います。そして、ヘルパーを辞めようとするあやかに向かって、中田は自分の本心を吐露します。アイドルグループ・ヘルパーのプロデュースは「自分が楽しむため」だと。「やりきれなかった人生をヘルパーで取り戻している」とも。あやかも「自分のため」にすべてを出し切れ、ヘルパーに賭けろ、と伝えたかったんだと思います。その後のライブシーンで中田が表情で語ります。

 アイドル運営の実際は、これほどカッコイイものではないかもしれませんが、気持ちは伝わってきます。先日、この作品のモデルとなったベルハーのスタッフさんを、とある対バンライブ会場で見かけました。ほどなく出番が回ってくるというタイミングで、PA席に駆け込んだスタッフさんが、照明やミキシングコンソールの脇に立ち、細かく注文を出しているのです。ライブ会場のエンジニアからすれば、面倒に思うのかも知れませんが、その熱意が伝わったのか、即時変更に対応してライブは大盛り上がりのうちに幕を閉じました。

 あたり前ですが、ライブアイドルは文字通りライブが命です。彼女たちはテレビのバラエティ番組にも、『ミュージックステーション』にも『MUSIC JAPAN』にも出演しません。ライブの一瞬に賭ける想いは、運営側もアイドルヲタク側も、もちろんアイドル本人もハンパない熱量を持っています。

 タイトルである「アガペー」とは何なのか。ここに来て、振り返ってみようと思います。『大辞林 第三版』の解説によると、アガペー【agape】とは、「キリスト教における愛。罪深い人間に対する神の愛,人間どうしの兄弟愛など,自己犠牲的・非打算的な愛をいう」と、なっています。

 はたして、アイドルヲタクのすべてが、自己犠牲的・非打算的な愛をアイドルに注いでいるかは疑問です。それは、この作品に描かれたドルヲタたちにも言えることですし、多くの実在のドルヲタのみなさんにも言えることなんじゃないかと思います。ただ、ワンマンライブを埋めたい気持ち一心でチケットを複数購入して新規ファンに無料で配るヲタク、なんとかオリコンウィークリーチャートで10位以内にしたいと願って県外のタワーレコードまで車を走らせるヲタク、ホノルル駅伝に出場するアイドルと苦楽を共にしたいと毎日ランニングを続けたヲタク。いろんな物を投げ捨てて、アイドルを一心不乱に応援するドルヲタに直に会うと、愛おしくすら感じます。

 アイドルとして輝こうとする女の子の刹那、それを応援することで何かを見つけようとするドルヲタの“献身”、どちらも輝いて見えるのです。彼らは、一般の人間からは注目もされずに、今日も全力で命を削っています。それを描き切った真鍋氏の『アガペー』は名作と言っていいでしょう。まだ読んでいないという方、特に非ドルヲタの方には是非、手に取って読んでもらいたい作品です。
(文/矢口明)

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