Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第30回

光源氏と頭中将たちの会話の内容は、まるで朝方のホストのよう!? 『あさきゆめみし』が教えてくれた普遍の法則

 17歳になった光源氏が、彼のライバルであり、親友であり、光源氏と並び立つくらい見てくれも育ちもいい頭中将たちと女談義をするシーンがあるのだが、その内容は、

「やさしい女は情に流されて浮気をしかねないし しっかり者はがさつで色気にとぼしく味気ない……」

 朝方の、歌舞伎町の喫茶店でだべっているホストの会話みたいで、今読んでもイラッとした。

 そして光源氏の恋愛も、なかなか過激である。

 母に生き写しの義理の母、藤壺と関係をもって子供を作ってしまう。熟女である六条御息所と恋人になったが、六条御息所は嫉妬を押し殺した結果、生霊、死霊になって、光源氏の恋人を殺したり、取り憑いたりする。さらには、藤壺に似ている10歳の少女を理想の女性に育てて結婚する。頭中将と競争して、ひっそり暮らしている姫君に会いに行くと、すごいブサイクだったのでガッカリする。

 などなど。

 国宝の源氏物語絵巻で見ると、ナスみたいな顔の人たちばかりだからあんまりうらやましくないのだが、少女マンガで現代的に書かれると、すごく生々しい。

 光源氏が今現在同じことをやったら、「鬼畜」と呼ばれ、週刊誌に載ってしまうだろう。

 また、美男子・光源氏はちやほやされるのだが、ブ男はまったくいい目に合わない。
 地方の豪族、大夫の監(九州弁のブサイクに描かれている)に強引に求婚された、玉鬘(頭中将の娘)は、結婚を決めるのだが、心の中で

「あの男にふれられるまえに 命を断とう……」

 と決めるのだ。

「生きろバカ!!」

 と思わず声が出てしまった。

 容姿がよく、生まれ育ちがいい人のほうが、人生では得をすることが多い。こと恋愛に関しては如実で、ブサイクはとっても苦労することになる。それは1000年間、まったく変わっていないんだよ、という事実を『あさきゆめみし』は高校生に教えてくれたのである。高校時代、傷つきながらも、でも楽しんで読んでいたのを思い出した。

 1000年前に作られた物語のキャラクターたちに感情移入できるというのが、『源氏物語』の、そして『あさきゆめみし』のすごいところである。戦記や冒険譚のように、盛り上がったり、エンディングでカタストロフィがあったりするワケではないのに、とても面白い。

 それに、教科書で部分的に出てきたり、源氏物語絵巻で見たりしても、なかなか興味を持てなかったかもしれないが、少女マンガとしてならばとても読みやすい。ただ、勉強のために読むというよりは、1000年前の大小説家紫式部と、現代の大少女マンガ家・大和和紀のコラボレーション作品として読むと、より楽しめるんじゃないだろうか。

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/

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