“鼻血”描写をめぐって大炎上が続く『美味しんぼ』は、何が問題なのか?

■マンガとして演出・構成にバランスは取れていたか?

 22・23合併号の掲載話の中では、鼻血の出た山岡が病院へ行ったシーンで「福島の放射線とこの鼻血とは関連づける医学的知見がありません」と医師に発言させている。一方で、次のページからは「体調に変わりはありませんか」「実は鼻血が」「僕も」「私も」「福島では同じ症状の人が大勢」――というやりとりが始まり、鼻血の原因は明示されないまま、次号へと続いている。確かに、衝撃的な展開で次号への引きを作るのはマンガの常套手段でもあり、それがネット上でクローズアップされて拡大解釈をされてしまうこともままある。しかし、今回はそれを踏まえても、社会問題を扱うに当たり誤解を生じかねないような、配慮が足りないと捉えられかねない、ネガティブな意図を伴った構成といえるかもしれない。

 また、それに続く24号掲載話では鼻血の原因について「私が思うに、(中略)被ばくしたからですよ」と井戸川氏が自説を語るシーンがある。しかし肝心な“鼻血の原因が放射線の影響かどうか”の科学的根拠を説明する場面では、急に登場人物の主張がトーンダウンする。「放射能だけの影響とは断定できませんが」「まだ医学界に異論はありますが」と、たった3ページの間に2度もエクスキューズ(鼻血の原因が放射線ではないかもしれない)と見られるセリフが出ている。前話の「福島の放射線とこの鼻血とは関連づける医学的知見がありません」と合わせれば3度目だ。

 しかし、いつの間にか作中ではキャラクターのやりとりの中で「放射線は人間の体のすべての部分に影響を与えるのだ」と言われ、やがて「福島にいると危ない」「福島県内には住むな」という結論に至っている。流し読みする程度では気づきにくいが、じっくり読むと構成のアンバランスさに違和感をおぼえる人も少なくないだろう。なお、低線量被曝が鼻血の原因ととられかねない一連の描写について、専門家が「科学的にはありえない」と断定していることもあわせて知っておきたい(http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140512/dst14051222400016-n1.htm)。

■現実とフィクションとの区別は明確だったか?

『美味しんぼ』は新聞記者である山岡がさまざまな土地を訪れ、取材を行なうという体裁でエピソードが進められることが多い。“福島の真実”編でも、井戸川氏をはじめ実在の人物が、架空キャラクターである山岡たちに多くのことを語るわけだが、“現実とフィクションの境界線” は明示されない。

 端的にいえば、社会派マンガのお約束である「※この物語はフィクションです。実在する団体や個人とは一切関係ありません」という注意書きが、『美味しんぼ』には記載されていない。同じスピリッツの掲載作――たとえば、「スピリッツ」22・23合併号に掲載された『闇金ウシジマくん』にはきちんと明記されているのに、である。実在の人物もまじえながら社会派フィクションを描くなら「※この物語は取材に基づいたフィクションです」とでも書けばいいのだが、それも『美味しんぼ』にはない。加えてシリーズのタイトルが“福島の真実”だ。

 現実とフィクションの境界があいまいな状態で、「医学的根拠はないけれど鼻血が出て体が疲れやすくなります。福島の人はみんなそうです」と“実在する人物”から語らせてしまったわけだ。現実の風評被害に悩まされている福島県民なら、「ふざけるな!」と叫びたくなるのは当然かもしれない。

美味しんぼ 110 (ビッグコミックス)

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”真実”なんて人の数だけあるんですよ。というか、食の話は…?

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