処女作から『サカサマのパテマ』、最新作まで――吉浦康裕監督が自身の軌跡を辿った!

 そして第3作目が『水のコトバ』になる。同作は02年、『デジスタ10ミニッツシアター』での放送になった。大学の卒業制作という位置づけとなる本作だが、吉浦監督の出身大学である九州芸術工科大学(現:九州大学芸術工学部)がアニメーション制作そのものを学ぶ大学ではないため、作品のみでは単位とならず、追って論文を書く必要があったとのこと。

 岡本教授は当時「長江(努)さんが『愕然とした。ヤバいと思った』って言ってた」と述懐した。なお長江さんとは、吉浦監督と『ペイル・コクーン』および『イヴの時間』を製作した株式会社ディレクションズの代表のことである。ディレクションズはNHKなどで番組制作を行っており、『デジスタ』に登場したクリエイターを同社がNHKで担当しているほかの番組の制作で起用するといった試みも行ってきた(『デジスタ』と同様に惜しまれつつ終了した『トップランナー』も同社制作)。

『水のコトバ』は就職活動のこともあり「映像業界ならモノを作っとけばなんとかなる」(吉浦)とした上で、さらに「よくある学生作品に見られるのでないかと思ったから、違うのを作ろうと思った」(吉浦)というのが、本作制作の動機となったそうだ。そして「高校から演劇をやってたので、(セリフのない『キクマナ』とは)逆に喋る作品」(吉浦)を目指した。

 第4作目の『ペイル・コクーン』(05年完成)から最新作『アルモニ』までは、予告編のみの上映となった。同作は、就職活動で迷ってた頃に長江さんから新作の制作について声をかけられたことが制作のキッカケとなった。『水のコトバ』制作・完成の02年は、新海誠監督の『ほしのこえ』が話題を集めた年でもあり、「『水のコトバ』みたいのなのを作ってる場合じゃない」(吉浦)と、企画をスタートさせたと語る。

『ペイル・コクーン』はDVDを出す前提で話が進んだ。ここから吉浦監督は商用へのキャリアにシフトする。当時、岡本教授は吉浦監督と長江さんの打ち合わせを横で見ながら「脚本を相当凝ってるな」との印象を持っていたという。岡本教授は『水のコトバ』を取り上げた際に関連の話題として、学生や短編の作者で「物語としての脚本をかける人が少ない」ことを指摘していたが、『ペイル・コクーン』の話の際には「プリプロ【編注:アニメでは脚本・絵コンテの完成を指すことが多い】から時間を割く人が少ない」ことも挙げていた(『ペイル・コクーン』は06年、第1回札幌国際短編映画祭で最優秀脚本賞を受賞した)。

 そして第5作目の『イヴの時間』(08年第1話公開/6話連作)に移る。『ペイル・コクーン』は吉浦監督にとって個人制作の作り納めであったため、「作画は手放してCGに集中する」と長江さんに提案したところ「連作にしてくれ」との注文が返ってきた。そこで思い出したのが、第3作目の『水のコトバ』であった。CGで「ハコを作っておけばシリーズものを作れる」(吉浦)との理由からだった。ハコとは、『水のコトバ』と同様に作中の舞台“喫茶店”のことを指す。

処女作から『サカサマのパテマ』、最新作まで――吉浦康裕監督が自身の軌跡を辿った!のページです。おたぽるは、イベント情報・レポアニメ話題・騒動の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!