処女作から『サカサマのパテマ』、最新作まで――吉浦康裕監督が自身の軌跡を辿った!

 岡本教授は『イヴの時間』が連作になったことに対し「何故一気に出さないのか」と思っていたそうだ。これには「(長編であると制作時間が)非常に長いから(作品を待つ人に)忘れられる。出来たら出すようにしたほうが、(作品のことについて)覚えておいてもらいやすい」、「ファンは15分でも面白いと思うし、次が2ヶ月先でも待つ」という長江さんの“戦略”があったと吉浦監督は語った。制作時間が非常に長いことについては、基本的にスタッフが吉浦監督を含めて4人であったことも背景としてあった。

 そして同作は全6話の配信から「“テレビから劇場にする”というセオリーのように」(吉浦)、劇場版(10年公開)として再編された。「長編は長編で見応えがある。1本にまとめた時点で見ようと思った人もいる」(吉浦)。

 第6作目の長編『サカサマのパテマ』(13年公開)は「企画を出すならこのタイミングしかない」(吉浦)と、『イヴの時間 劇場版』の公開から2カ月後に初案を提出した。「『イヴの時間』がマニアックに受け取られたので、間口を広げて『金曜ロードSHOW!』で流せたらいいな」(吉浦)。しかし小学生でも見れることを念頭に置きつつも「メジャーをやればやるほど丸くなる牙が削がれる」(吉浦)ことへの懸念もあった。

 そして最新作・第7作目が短編『アルモニ』(14年公開)だ。『サカサマのパテマ』が「完成したのは去年の今頃(3月)」(吉浦)であるが、それからほどなくして「アニメミライ2014」の企画として提出していた『アルモニ』が認可されたことで実現した。『イヴの時間』で学校のシーンを(メインで)描けなかった」ことからの企画だった。同作は「今後どういった見せ方をしようかと話している」(吉浦)ということなので、続報を期待したい。

 これまでの流れに準じて、岡本教授の「最高の環境で見せたいと思うのを軽々と飛び越えた」との感想に、吉浦監督は「映画館で見せることだけを考えてたらダメかな」と答えた。また吉浦監督の幸運は、何よりもオリジナル企画で作り続けられていることにもある。「白馬の王子さまに出会えないかな」(岡本)と常々思っている人にも、「これくらいのものを作ったら現れるんじゃないか」(吉浦)と信じて作るしかない現状は変わらない。

 それから吉浦監督の「短編をたくさん作ったおかげで長編が苦でない。長編からとか逆のほうが難しい」との意見に、岡本教授が「短編と長編が切り離されている。道筋が敷かれてない」点にも触れていた。そして現在も制作スタイルが基本的に「メジャー感があるけど少人数」(吉浦)であることでもこうした作り方が有利に働く反面、アニメ業界内からの「叩き上げじゃないから信頼してもらうまでに時間が掛かる」(吉浦)という問題もあるようだ。実際、「パテマの時に『劇場(長編)作れるの?』と言われた」(吉浦)という。こうした点からも、まだまだ吉浦監督のキャリア事例が、アニメ業界において特殊であることがわかるだろう。

 今回のトークの締めとして、吉浦監督は「僕もまだまだこれからなんですけど自分が作りたいモノと(それだけでなく)客の心を掴みに行く」ことが大事だとトークを終えた。「10年20年経ってもこういうモノをつくると決めとけばブロードマップができてくる」(吉浦)。最後に、「今度新しい企画を動かすので、After Effectsや3ds Maxを使える人がいると嬉しい」(吉浦)と、優秀な学生を募るという求人も忘れなかった。
(取材・文/真狩祐志)

■東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻第五期生修了制作展
http://animation.geidai.ac.jp/05go/

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