映画『ドキドキ!プリキュア』VS『まどか☆マギカ』“魔法少女”両雄を徹底比較!

※本文中には“ネタバレ”が含まれていますので、ご注意ください。

1310_mado_pri.jpg『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』(画像左)、『映画 ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!?未来につなぐ希望のドレス』(画像右)。共に公式HPより。

 1966年に放映開始された『魔法使いサリー』から始まった“魔法少女”アニメは、91年の『美少女戦士セーラームーン』によって“変身ヒロインバトル”の要素を加えられつつ、現在まで続く一大ジャンルへと成長した。そんな半世紀近い歴史を背負った魔法少女アニメから、2つの作品が劇場版として10月26日同時公開を迎えた。

 かたやセーラームーン直系の遺伝子を受け継ぐ変身ヒロイン『プリキュア』シリーズの最新作『映画 ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!?未来につなぐ希望のドレス』(以下、『ドキプリ』)。かたや魔法少女アニメの“お約束”をとことんまでに叩き潰し、アニメファンのド肝を抜いて名をあげた『魔法少女まどか☆マギカ』の最新作『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』(以下、『まどか☆マギカ』)。両雄が同じ時に対決することになったのは天の采配なのだろうか。

 ここでは王道対邪道ともいえる両映画について、それぞれの注目ポイント・見どころについて比較レビューをしてみたい。

【興行成績】
『まどか☆マギカ』は10月26、27日の2日間で興収4億円を記録。同じく2日間で『ドキプリ』は2億1341万円。今のところ興行的には『まどか☆マギカ』が一歩リードしている状況だ。これは26、27日の興収ランキングでそれぞれ1、2位の成績。まさに竜虎相うつ状況となっている。

【新登場キャラクター&声優】
『ドキプリ』の敵・マシューは、クラリネットの音色で人々を思い出のフィルム世界に閉じ込める謎の男。声優は特別出演の谷原章介が担当しており、安定したイケメン悪役といった演技で感心する。ご本人も元々アニメ好きを公言し、『スカイクロラ』や『ベクシル 2077日本鎖国』ほか、声優経験も豊富なので納得のキャスティング。

『まどか☆マギカ』では、厳密に言うと、本作には新たに追加された新キャラクターはいない。しかし、物語中には阿澄佳奈が演じる新たな魔法少女・百江なぎさやマミの相棒・べべ が登場している。

『ドキプリ』がテレビでのレギュラーの敵・ジコチューと戦わず、番外編扱いとなっているのに対し、あくまでひとつの閉じた世界の変遷を描きつづける『まどか☆マギカ』ならではのこだわりが表れているといえるだろう。

【作画&CG】
 今回の『ドキプリ』では、作画監督を担当した上野ケンによるシャープな描線が堪能できる。一般的には『ゲゲゲの鬼太郎(5期)』のねこ娘を萌えっぽく作画したことで“再発見”された形となる上野氏だが、実はキャリア30年のベテランアニメーター。作画マニア的には『キューティーハニーF』終盤のダイナミックプロ他作品パロディが炸裂した時期をチェックしてもらいたい。

 CG表現では、クジラ型飛行要塞やその内部メカニックなど、東映アニメーションらしい高クオリティのCGが使われているが、プリキュアたちの激しいアクションシーンのいくつかにも3Dモデリングのキャラがさり気なく使われているのが確認できる。これも劇場版作品ならではの試みだろう。

『まどか☆マギカ』の前半は、かなりキャラクター原案・蒼樹うめ氏の画風に近いカットが散見されたように感じられ、全般的に丁寧な作画が多い。細かく描かれるまどかたち5人の変身シーンと、それに続く「ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット!」と名乗る決めポーズは、「魔法少女アニメ定番シーンを『まどか☆マギカ』でやってみせる」という高度なパロディの表れか。…終盤、これまでとガラリと印象の変わるキャラがいるのだが、ひとりだけ作画タッチまで変わっているような?

 しかし今作では、なんと言っても劇団イヌカレーによるビジュアルに圧倒される。体感だが、劇中背景のほぼ3分の2程度は「イヌカレー空間」として描かれているのではないか。ところどころに散見されるイヌカレーのビジュアル。これもまた本作の物語の秘密を解く鍵なのだ。

【物語&テーマ】
『ドキプリ』のストーリーは以下のようになっている。敵の魔力によって、幼い過去のオモイデの世界に飛ばされてしまったマナたち。一見幸福な思い出に満たされた安らかな場所に思えるが、そこには現在の世界での友人であるプリキュアのメンバーはいない。やがてそこは自分ひとりだけしかいないかりそめの世界であることに気づかされる。

「時間の流れは一定方向で逆には巻き戻らない。しかし、過去の行いや思い出の積み重ねこそ、よりよき未来へ進み導くための糧となる」というのが今作のテーマであり、タイトルにも示されている“親子三代に受け継がれるウエディングドレス”というアイテムが象徴していることでもある。本来の観客である女児児童に向けて、十二分なメッセージを放った作劇になっていると思われる。

 しかしそれだけに、終盤唐突に正体を現した真のボスと、ラストバトルを終えた直後、余韻もなくエンディングのダンスへと突入してしまう展開だけは残念でならない。明らかに尺配分のミスではなかろうか。

 一方『まどか☆マギカ』は、実は陰陽二元論の物語ではなかろうか。テレビシリーズ(及び劇場版前2作)を通じて、まどかは自らを人から神に近い存在へと変えることで、すべての人間と魔法少女たちを救う道を選んだ。しかし、まどかによってもたらされた平穏をも利用しようとする者を感知した「あるキャラクター」が「叛逆」をし、あえて自らを悪魔に近い存在へと変えることで、まどかと2人で対になる“神と悪魔”“陰と陽”の存在となり、新世界の均衡を保ち続けようとする道を選んだ……と筆者は解釈した(だいぶネタバレですが)。

 これはテレビシリーズからの「何度でもやり直しすることでより良き方向へ向かう解答が見つかるはずで、常に道を模索する努力を続けよ」というメッセージがよりシビアな形で提示されただけにすぎない。大人になれば常に人生の選択と決断を迫られる。若者層から一般層、つまり成人が本作の主たるファン層であることを考えると、スタッフの伝えたい箴言がここに集約されているのではないか。

 ……以上、本稿の冒頭に「魔法少女アニメ王道対邪道」と掲げたが、分析してみると実は2作品ともかなり似通ったテーマを扱っているように思われる。それは「過去の出来事を踏まえ、これからをどう生きるべきか?」という観客への問いかけではないだろうか。

 やはり奇跡を信じる力こそが未来への道を開く。夢を失いがちな我々にそんなことを一瞬でも信じさせてくれるのが、魔法少女が使える最大最強の“魔法”なのではなかろうか。
(文/出口ナオト)

■『映画 ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!?未来につなぐ希望のドレス』
監督:伊藤尚往
声の出演:生天目仁美 、寿美菜子、釘宮理恵 、谷原章介ほか
公式HP:http://www.toei-anim.co.jp/movie/2013_precure/

■『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』
総監督:新房昭之
声の出演:悠木碧、斎藤千和、水橋かおり、喜多村英梨、野中藍ほか
公式HP:http://www.madoka-magica.com/

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