昭和と平成を駆け抜けた津田広樹の回顧

薔薇族だった時代 ~脱いでいる瞬間の美学~ 第15回

薔薇族だった時代 ~脱いでいる瞬間の美学~ 第15回の画像1撮影:津田広樹

 モノクロームの写真と写真集がいつの時代も愛でられているように、薔薇族誌面の中盤に掲載されていたモノクロームのグラビアは、ともすればカラーグラビアよりも人気があったかも知れない。

 カラーグラビアと同じようにモデルにポーズをとらせて撮影したモノクローム写真もあったけれど、私の撮影する世界観は、いつからか体育会系の元祖と呼ばれていた。美しい筋肉を持った本物のスポーツ選手が私服を脱いで、スポーツのユニフォームに着替えをしている瞬間を撮影したショットが高く評価されていたのだ。

 薔薇族の読者は、自然体のスポーツ選手を見たかったのだろう。銭湯やプールやジムなどで美しい筋肉のスポーツマンが着替えていても、それをガン見していたら大変なことになる。まして写真を撮ることなど不可能だ。だから、薔薇族の誌面にスポーツマンの着替えている写真を掲載すると、ことのほか評判が良かったのだ。

 しかしいくら個人情報云々言われにくい時代だったとはいえ、盗撮はもちろんNGだ。その手の撮影にはかなり苦労した。

 初めて「盗撮風」にしたモノクロームページは、『覗見嗜好』とタイトルを付けた80年代の作品だった。これは、都内のビルの2階にあったスポーツジムがガラス張りで、トイメンのビルから丸見えだったことに私が気付き、そのジムの会員だったスポーツ選手に内密に頼みこんでの撮影だった。

薔薇族だった時代 ~脱いでいる瞬間の美学~ 第15回の画像2

 そのスポーツ選手が、何時までトレーニングするかを聞き、シャワーを浴びた後に硝子張りで丸見えのおよそ3メートルのエリアを全裸で歩く約10秒の間を、正面のビルから撮影するというものだった。写真週刊誌の張り込みゴシップ撮影カメラマンみたいな気分だった。

 もちろん撮影は大成功だった。そのスポーツ選手が着替えてビルの前に出てきたので、撮影できたことを伝えると「すみません。撮影されるのをすっかり忘れててゆっくり歩かなかったかも」と彼は言った。つまり合法的なヤラセでありながら、自然な盗撮感満載の写真になったのだ。

 他にもスポーツ選手に頼み込み、競技会など完全に屋外での撮影にも挑んだ。屋外の自然光での撮影は、モノクロームならではの味が出て、特に選手の脚の筋肉が美しく撮影できた。当時のスポーツ選手のインナーは、白いビキニブリーフタイプのサポーターが主流だったので、より新鮮な清潔感あふれるスポーツ選手の着替えシーンが写し出せたと感じている。

 海外のAVを観ると、スポーツウェアの選手が次のシーンで全裸になっていることがほとんどだ。なぜ「脱いでいる瞬間の美学」 を見せないのか、と私は感じていた。だから薔薇族のグラビアを撮影した時には、「脱いでいる瞬間の美学」をふんだんに取り入れた。
(文=津田広樹)

【津田広樹プロフィール】
 いわゆる80年代アイドル全盛の時代にスチール撮影のみならず、その多才さを認められてグッズ等の企画発案にまでもマルチな才能を発揮したキャリアをもちながら、あらたなる新天地として当時の有力ゲイ雑誌であった薔薇族の出版会社に編集部員として転身。その後もさらにその非凡なる才能の昇華は衰えを知らず、グラビアや企画ページ等にも幅ひろく手腕をふるい、多くの絶賛を得るまでにおよぶ。そして1996年にはゲイ業界初の試みであった3D写真集付き映像ビデオ、ジャック・リードを発売し世に送り出した。
 さらにオリジナル競パン付きDVDの発売など革新を起こし続けるも、昨年に全ての映像ソフ トのレーベルを手離す。しかし長年にわたり不変的な価値観を持ち続ける津田広樹の世界観は色褪せることのなく、その真価を現在も世に問い続けている。

●津田広樹Twitter
https://twitter.com/hk8efj4xx3zxkim

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