西村啓『桜葉先輩は初恋』オッサンが喜びそうな“個性派の枠”を超えたマジキチヒロイン 

 このところ、ねこぐち『天野めぐみはスキだらけ』とか、オダトモヒト『古見さんは、コミュ症です。』など、サンデー系は、キャラの尖ったヒロインで、男子のフェティシズムを刺しに来る路線を強化している。

 最新の公称印刷部数(2016年10月~12月)は、

「週刊少年サンデー」32万3,250部
「週刊少年マガジン」98万6,017部
「週刊少年ジャンプ」200万5,833部

 同年1月~3月は、

「週刊少年サンデー」34万5,667部
「週刊少年マガジン」103万8,450部
「週刊少年ジャンプ」223万8,333部

 である。

 もはや、かつてのように雑誌を維持できないことだけは、理解しているのか。各社ともにウェブでのマンガ配信には熱心に取り組んでいる。これが、商業面で成功の王道を見つけられるか否かは不明瞭。とはいえ、ウェブが主流になったことで利点はある。より、読者にクリックして作品を読んでもらうために、趣向が凝らされるようになっていると思うのだ。

 とりわけ、ヒロインに対して読者が「俺は彼女のことをわかってやってるんだ」と感じるような作品は増えているような感触。メンヘラ女にハマるヤバい感覚と同一なんだけど、リアルと違ってマンガだから安心できる。

 そんなワールドに、新たに投入されたのが「サンデーうぇぶり」で配信されている、西村啓『桜葉先輩は初恋』(小学館)である。

 そもそも、ラブコメマンガの初現は、柳沢きみおの『翔んだカップル』(講談社)だったとされる(「週刊少年マガジン」にて1978~1981年に連載)。この当時、ラブコメには結構なヘイトも多かった。

 なにせ、うじうじと何も取り柄のない主人公に、ヒロインのほうが積極的に関わってきて、イチャイチャ楽しくしてしまうのだから。でも、読者にとっては、それが心地いいのだ。現実において、無力であることを自覚せざるを得ない自分の情けなさを、主人公に投影して慰撫することができるからである。

 ある程度、歳を食った世代がラノベに対して批判的なのは、おそらくこの思考が源泉にある。だって、会社勤め等々の人生経験を積んだら、特殊能力やら血族の運命やらを持つ主人公に感情移入なんてできないではないか。

 この『桜葉先輩は初恋』は、そうした世代、ありていにいえばオッサンこそを悶絶させる作品である。なぜなら、主人公が読者自身なのである。主人公・一ノ瀬カナタは、取り柄もなくクラスメイトたちのパシリ扱いされている少年。挙げ句の果てに、才色兼備な桜葉先輩に告白するという罰ゲームを強要されてしまうのである。

 ところが、先輩の答えは、まさかのオッケー。なぜなら、先輩は、何年も前から密かに、カナタのことを想い続けていたのである。その想いたるや、盗撮を繰り返したり、上履きを盗んでいたりしていたという、けっこう重篤な症状のもの。

 早い話がメンヘラなんだけど、それでも問題はない。なぜなら、先輩の家は大金持ちなのである。だったら、壁ドンしようとして壁に穴をあけるような想いに応えてあげなくてはいけないではないか!

 というわけで、この作品。一見、主人公が変態というよりマジキチなヒロインに振り回されて、ドン引きしている感じがする。でも、それは実はとても心地がよいことなのだ。なぜなら、自分から能動的になにかをしなくても、次々とイベントが起こってくれるのだから。受け身で流されるゆえの、マゾヒスティックな快感が、ページをめくるごとに貫くことはいうまでもない。

 個性派の枠を超えた、マジキチヒロインの価値は、そんなところにあるのだろう。
(文=是枝了以)

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