ちばてつやの隠れ名作『風のように』がクラウドファンドでアニメ化! 主人公に“みなし子”が多い理由は?

 若き日の宮崎駿監督がテレビシリーズ化を渇望した『ユキの太陽』のユキ、『あしたのジョー』の矢吹丈、そして本作の三平とチヨなど、ちば作品の主人公には親がいないことが多い。「みなし子の知り合いがいたんですか?」という海外のファンからの率直な質問に対し、ちば先生は満州から引き揚げた幼年期の体験を穏やかな表情で語った。

「終戦後、中国から1年がかりで日本に帰ってきました。男兄弟4人を連れ帰った母親は、子どもを守るのに必死で女性ではなく男みたいになっていましたね。引き揚げていく中で、家族と逸れてしまう子や死別する子が多かった。また、日本に帰ってからも戦場で父親を失い、母親を空襲でやられたという子がいっぱいいた。その頃の私は7歳でしたが、自分と同じくらいの年齢の子どもたちが浮浪児、戦争孤児として上野駅で夜露を凌いでいる光景をずっと見ていました。子どもたちを描くときは、いつも彼らのことを思い出しながら描いているんです」

 戦中・戦後の強烈な体験が、ちば作品には色濃く投影されていたわけだ。「少女誌でなぜ養蜂業を扱ったのか」という女性ファンからの質問に対する答えも胸に染みるものだった。

「昔の作品を読み返さないので、すっかり忘れていたことを思い出しました(笑)。『風のように』を描いた頃は漫画家になって10年ほど経っていたんですが、締め切りに追われてずっと部屋に篭っていたんです。それで花の咲く季節になると、花を追うように日本列島を旅をする養蜂家にとても憧れていました。漫画家がダメだったら養蜂家になろうと思っていたほどです。また、その頃は自然破壊が進んでいた時期でもあり、無意識のうちに誰かに描かされていたような気がします。自分とはまったく正反対の生活に憧れ、三平と一緒に日本中に花を咲かせたいという想いが『風のように』を描かせたようです」

 ちなみに『風のように』は、『あしたのジョー』の週刊連載が始まった1968年の翌年に発表した作品。『あしたのジョー』という漫画史に残る大傑作を手掛ける一方で、環境問題をテーマにしたオリジナル作も生み出していたというのも興味深いではないか。この日のちば先生は、“漫画家としてのこだわり”についても語ってくれた。

「自分の作品を自分で分析することはあまりないのですが、パーフェクトな人間には興味が持てないんです。スーパーマンみたいに何でもできる能力を持つキャラクターには親しみが感じられない。うちの家族もそうですが、人間ってみんな欠点だらけです。何でこんなことやっちゃうのということをついやってしまう。でも、そんな人間が昨日よりも今日はちょっとだけレベルが上がった人間になりたいと頑張っていると、私は応援したくなる。三平にしても、『のたり松太郎』も、みんな欠点だらけ。『おれは鉄平』もそうですね。近くにいたら、うっとおしい人間ばかり(笑)。でも、下手なりに一生懸命に頑張っているから励ましたくなる。自分の作品のこだわりって、そういうことなのかなって、今ふと思いました」

 社会のレールに従って走ることを嫌う野生児たちのヤンチャぶりが描かれたちば作品は、時代を経てもいつもエバーグリーンな輝きを放っている。『風のように』のアニメ化をきっかけに、ちば先生の作品をはじめ、埋もれがちな傑作短編が再評価されることを願いたい。
(文=長野辰次)

『風のように』
原作/ちばてつや 監督/本多敏行 声の出演/野沢雅子、福原美波、鈴木れい子、武田華 7月9日(土)より下北沢トリウッドにてロードショー
(c)ちばてつや/エクラアニマル
http://www.kazenoyouni.com

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