名作文学も結局はラノベだったことに気づく──ドリヤス工場『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』

 水木しげるを完全にインスパイアした絵柄で知られるドリヤス工場が、リイド社のトーチwebで連載している『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』がようやく単行本になりました。

 まずドリヤス工場の作品を未読の人に解説すると、水木しげるの絵柄はもとより魂を完全に自らに取り込んだマンガ家とでも表現するのがよいでしょう。『あやかし古書店と少女の魅宝』(一迅社)で一躍注目を浴びたマンガ家ですが、単に水木作品の特徴的な登場人物の造形である、おちょぼ口の諦観に満ちた冴えないキャラクター造形というような、絵柄を真似てパロディにしているのではありません。

 コマの配置や物語の進んでいくスピードまで、すべてが水木しげる作品に込められた魂を継承しているのです。多くの人には『ゲゲゲの鬼太郎』をはじめとする、子ども向けの妖怪マンガの第一人者と知られている水木しげる。でも、その本質は世間に対する怨念や諦観の先にある超越した観察力にあります。子ども向け作品では、エンターテイメント性を重視してセーブしているフシもありましたが、大人向け作品になると全力で描いていました。けっこう入手困難ですが、大人向けに描かれた『SF新鬼太郎──新世妖怪幻想綺譚集』(東京三世社)などは、刊行当時は子どもが間違えて買って度肝を抜かれたんではないかと思います。

 もはや、戦争から貧困まで自身の体験を通じて超越した、水木しげるだから描ける世界を再現しようとしたドリヤス工場。そんなマンガ家が名作文学をマンガにしたらどうなるのか?

 今回収録されているのは、学校で教わる文学史にも出てくる、よく知られた作品ばかりです。読んだことはなくても、タイトルくらいは知っていたり、あらすじくらいは知っているでしょう。太宰治『人間失格』、泉鏡花『高野聖』、新美南吉『ごん狐』、菊池寛『恩讐の彼方に』などなど……どれも、原稿を書いていて一発変換してくれるレベルの有名作品ばかりです。

 この単行本、帯には「名作の主人公の9割はろくでなしだった!!」と記されています。なるほど、よく知られた作品でありながら、独特の絵柄によって、ろくでなし感がグイグイと迫ってくるのです。この作品、日本の作品のみならず、アンデルセンの『雪の女王』やグリム兄弟の『ラプンツェル』まで収録しております。そうした作品を含めて共通しているのは、物語の主人公というものは共通して、どことなく欲望を抑えきれなかったりする。そして、熱血になどなることなく、諦観の中に生きているのです。

 ここからは、いくつもの想いが沸いてきます。おしなべて現在まで残る名作文学というものは、作者自身の人生体験の末に紡ぎ出されたものばかりです。その強烈な人生体験が個性となり作品に表象されているわけです。

 おおよそ誰もが青春の熱い想いなどを体験した先の、人生の荒波を漂った上で作品を描いているでしょう。だからこそ、主人公、あるいは登場人物の多くはどことなく影を背負った存在になるのです。水木しげる的世界で名作文学を再現する行為は、そうしたことを気づかせてくれるのです。

 そしてもうひとつ、ラノベのテンプレ的な主人公と、名作文学の主人公に、さほど違いはないということも……。
(文=大居候)

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